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里帰り番外編 『楓』1
俺と桂人が冬郷家の屋敷で働くようになってから1年という月日が経っていた。
ここまで……本当にあっという間だった。
あの中秋の名月の下で……全ての運命はリセットされたのだ。
森宮家と冬郷家はそれぞれ独立し、独り立ちした。森宮家はもう……白き血族を追い求めなくてもいい。
桂人の執事としての仕事もかなり板に付き、まだまだ瑠衣の代わりとはいえないが、熱心にこなしていた。
冬郷家は、海里さんの実家のホテルと仕事として提携し……中庭を開放したティールームが世間で話題になっていた。本場英国仕込みのアフタヌーンティーを味わえる日本で有数の店舗で、アーサーさんが手配してくれる茶葉の味も大好評だった。
急激な変化は周りだけのことで……不器用な俺は相変わらず庭仕事しか出来ないでいた。だが、桂人は違う。
瑠衣の血を引く彼はなんでもそつなくこなして、執事の仕事、庭仕事の弟子、人手が足りないときは……ティールームのウェイターまでこなしていた。
野良猫みたいに不器用な奴だったのに、黒いエプロンに白シャツ、黒ズボンに蝶ネクタイというギャルソンというスタイルの桂人は、マダムからも大人気で今日も黄色い歓声が聞こえてくる。
俺は薔薇の手入れをしながら、何度目かの小さな溜め息をついた。
いつの間にあんな愛想笑いを覚えたのか。ぎこちなくしか笑えない奴だったのに。
少しつまらない気分で枝をポキッと折ると、いつの間にか海里さんが横に立っていた。
「海里さん、相変わらず神出鬼没ですね」
「ふっ、恋煩いのようだな、テツ。まぁお前の気持ちも分かるよ」
「何をですか」
「桂人みたいに美しい男は、お客様にモテモテだな。だが、その光景は時にお前を苛む。自分だけの桂人として閉じ込めたくなるのでは?」
「な、何を言って……」
素直に認めたくなくて、抗ってしまう。だが海里さんには、結局全て分かってしまうのだろう。
「これをやるよ」
「何です?」
差し出された白い封筒の意図が分からない。
「ボーナスだよ」
「?」
「この1年よく働いてくれたから、特別手当と休みを3日間やるよ、桂人と二人で旅行に行ったらどうだ?」
「旅行ですって? そんなもん、したことないですよ」
「だから、して来いよ。二人なんだから、もう何も怖くないだろう」
****
その晩、海里さんから言われた事を、桂人にどう切り出そうか迷っていた。
「テツさん、 どうしたんだ? 難しい顔をしているな」
「……桂人」
桂人はいつもの作務衣姿に着替えていた。二人きりの時は窮屈な洋服を脱ぎ捨て、ゆったりとした作務衣の中で身体を泳がせてくれるのが、嬉しい。
桂人が身じろぎする度に、ちらちらと見える肌色が艶めかしい。胸元から見える乳首はもうツンと尖っており、期待に震えているように見えて、一気に煽られた。
「あのさ……さっき、海里さんと何を話していたんだ?」
「え……」
「……仲良さそうだった」
もしかして妬いているのか。おいおい、お門違いだぞ。苦笑しながら桂人の細腰を抱き寄せると、桂人からも身を預けてくれた。
「抱いていいか」
「あぁ……待ち遠しかった」
あとがき(不要な方はスルー)
****
昨日は完結によせて沢山の反応をありがとうございます。
疾走感のある話なので、勢いよく1ヶ月ちょっとで完結させました。
でも、テツと桂人にはまだまだ甘さが足りませんよね。
この番外編では桂人の里帰りを主軸に彼らの仲をもっと深めてみたいです。
どうぞよろしくお願いします。
時間を空けると書けなくなるので、勢いのあるうちに番外編をスタートしました。
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