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楓「…突然何を言い出すかと思えば。私に兄弟などありませんが」
ポーカーフェイスのまま穏やかな口調で話す楓黎を、どこか不安気な表情で見る梅香。不安、というよりは不審、か。
梅「……」
楓「大方どこかでたまたま私と似たような容姿の者でも見かけたのでは?」
梅「先日、月の里の者を監視していた時、貴方様に非常によく似ている者が…」
〝月の里〟の単語に思わず反応し、片方の眉がひくりと動いたがあまりに微々たる変化の為、真正面にいる梅香でも気付かなかった。それほど彼のポーカーフェイスはいつだって完璧なのである。
楓「所詮他人の空似、と言うものでしょう」
梅「他人の空似…」
ぴしゃりと言い放つ楓黎。梅香も相手を間近で見た訳じゃないので疑問を持つに留まっている。
楓「この世には、己と似ている者が3人はいると聞きますし。ですが梅香ともあろう者がそのようなモノに惑わされてしまうとは…情けないことです」
梅「いえ、あれは空似というには似すぎて…!」
楓「もうよろしいですか?私はそんなものに関わっている場合ではないので。時刻ももう遅い。貴女も明日に備えて眠りにつきなさい。」
梅「っっ……夜分に失礼しました。」
まだ尚言い募る梅香に冷たく言葉を放つと自身は窓辺から離れ寝台へ向かう。これ以上は何を言っても、はぐらかされるか怒りを買うかのどちらかになると判断した梅香は、納得していないながらも大人しく引き下がる事にした。
楓「………」
何とも言えない苦々しさを残したまま、夜が更けていく。
ー続くー
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