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「来てはくれないのか?」
葬式に、ではなくあの世に、の意味で恭二が問うてきた。
「来るなと言っていたくせに」
私は「私」の姿をとり戻し、葬式へと向かっていた。喪服の袖を引く恭二にきっぱりと答える。
「葬式には行く。けれど君には捕まらない」
妻もいる。娘も孫もいる。私は私の人生を放り出して恭二と共には行けない。
「お前を引く力はたぶん、とても強いと思うが」
本心を語って落ち着いたのか、恭二は生来の勝気な様子で言ってくる。
「私の抗う力も負けずに強い」
気持ちが向けられていると知るや否や自信を持つのだから、私もたいがいだ。
今はまだあの世に引かれるわけにはいかないが、いつか逝く時には待っていてくれるだろうとうぬぼれている。
ネクタイを取り返して参列した葬式で見た遺影の恭二は、少年の頃とも歳老いてからとも違う、美しい青年の笑顔だった。彼の妻が選んだであろうその写真を目にして恥ずかしいと顔を覆う恭二を、ハンカチで隠した口元で笑った。
葬式の帰り道、恭二が言った。
「妻には骨を食ってくれと言ってある。そしたらひとつになれるから。ほんとうに食べるかどうかは分からないが。できれば君にもひとくち齧って欲しいとは願ってる」
それでひとつになれるだろうか。
わからないが、骨を手に入れるのは容易いことではないだろう。
どんな味がするんだろうなーーと思い歩いていると、公園で遊んでいる孫を見かけた。
「私の孫なんだ」と恭二に言って公園に立ち寄る。孫が手に持つ菓子に気付き、あぁこれは――と思いひとつわけてもらった。
白く脆いそれを、骨の代わりに噛み砕く。
子どもの頃に飲んでいたジュースのように懐かしい味のするラムネが、口内で溶けて消えていく。
振り返った先、恭二の姿はもうどこにもなかった。
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