さとり少女

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さとり少女

 日本には、『さとり』という心を読める妖怪がいるらしい。次々と相手の考えていることを言い当て、最後には心まで奪ってしまうという。  その妖怪を知った私がまず感じたのは、共感だった。  というのも私、月岡(つきおか)紗鳥(さとり)は、物心がついた頃から【心の声】が聞こえるからだ。  問答無用で聞こえてくるその声に、昔は散々振り回された。  小さい頃なんかは、普通に聞こえる声と【心の声】の区別がつかず、ご丁寧にも全部に受け答えをした。そのせいで不本意にも相手の考えを言い当ててしまい、しばしば不気味がられたものだ。案外、妖怪さとりもそんな事情があるのではないかと思っている。  今となってはそれなりに折り合いをつけているし、声の区別もつくようになった。  それに、父の転勤で小学校卒業と同時に引っ越したこともあって、ここには昔の私を知る人物はいない。  新しい土地で中学生になったのを機に生まれ変わろうと、とにかく時間と金と精神を注いだ。悪目立ちしない程度のお洒落に、コミュニケーション能力向上に、話題のための情報収集に、そして【心の声】との付き合い方。  地味だけど血の滲む努力の結果、昔のようにクラスで浮くことも苛められることもなくなったし、高校生となった今では友人が二人もいる。恋人はいないけど、まぁそれは置いといて。  表向きではあるが、平凡な女子高生として順風満帆な生活を送ってきた。  クラスで『冷感スプレー男』と評される、彼の秘密を知るまでは。
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