〈私〉と〈折り合いが悪い黒猫〉

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我が家には黒猫がいる。 わたしを見つけては、にらみつける黒猫が。 正直いえば、かわいげのない猫だ。 ことあるごとに突っかかってくることには慣れたが、さも自分がこの家の主であるかのようなふるまいに、お前は飼われているんだぞと言ってやりたくなる。でも、言ってもぷいとそっぽを向くだけなので言わない。 黒猫には日課がある。朝食を終えると、ふらっと外へ出る。昼に帰ってきてごはんを食べ、縁側で日向ぼっこ。夕食の次は家の中をパトロールし、家人が寝てから夜食をとる。 たまには一緒に遊んでやろうと手を伸ばしても、触られるのを嫌がって飛びのいて逃げる。 まったく、気位の高いやつめ。あのもふもふを、わしゃわしゃしたいわけではない。断じてない。 そもそも、捨てられていた黒猫を家に上げてやったのはわたしだ。その点では、わたしに感謝してくれてもいいはずなのだが、黒猫の中には厳然とした序列があるらしい。納得できん。 思い返せば、黒猫がわたしに威嚇しなかったときなんて、初めて会ったその日くらいのものだ。まったく、誰のおかげでこの家にいられると思っているのか。 日曜日の昼下がり。今日も黒猫はわたしをにらみつけている。 細い廊下なんだ。道を譲ってくれと思うのだが、威嚇した姿勢のまま、動かない。しばらくにらみ合ったままだったのだが、ちょうど家人が通りかかった。 「あら、どうしたの。クロちゃん、何もないところで怖い顔して」 そう、家人にはわたしの姿がみえない。 ひとり暮らしの家人のもとに、座敷童のわたしが勝手に住み着いているだけだ。でもいいじゃないか。迷惑をかけているわけじゃない。むしろわたしが黒猫を招いたことで、家人は話し相手ができて明るくなった。 わたしが務めたくてもできない役割だったから、わたしが代わりを連れてきたのだ。 家人に抱かれた黒猫がなおも、にらみつける。 「ここはお前の家じゃない」と。 そんなことはわかっている。けど、それをお前に言われたくはない。
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