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大きくはないが小さくもない両替商の家で普通に暮らしていた。
今日も普通に買い物をして、普通に帰り道を歩いていた。
たまには店の番頭たちにも挨拶しようと思い、店の正面から家に入ろうとした。別にそれだって普通のことだ。
でも店のある通りにくるとそこはいつもと雰囲気が違っていた。
人だかりができている。
それも、私の店の前を中心にして大きな円が。
何だろう?と思った時に人垣が割れて、血濡れの浪士が三人走って出てきた。
余裕のない表情。血走った目。返り血だろうか裾の辺りが特に赤黒い。
とても異様だったからか、それともずっと覚えていないといけないと第六感がはたらいたのか、やけに鮮明に頭に叩き込まれた。
その中でも一番異様だったのは縦に並んだ三人のうち真ん中の、店の千両箱を担いだやけに大きな体躯の人物だった。
それを見れば店が襲われたのだと馬鹿な自分でもすぐにわかる。みんな無事だろうか。父上は?兄上は?
居ても立っても居られなくて店に駆け込もうとした瞬間、袖を誰かが掴んだ。
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