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初は松本に看病の知識などを学ぶのを優先するため、賄い方から外された。
「台所に立たへんからとやりくりの勘定からも外されることになってん。松本先生から教えてもらうのも楽しいし、看病の仕事がつまらへん訳と違うけど、何やすっきりせんの。」
初は藤堂を捕まえて愚痴を聞いてもらっていた。
一方その話を聞いて藤堂はいよいよ算盤を贈る理由がなくなったことに困っていた。
自分がうじうじと勇気を出さずに贈りそびれているのが悪いのは百も承知なのだが。
知らぬ間にため息が漏れる。
「藤堂はん、何かあった?」
「いやいや、別に。」
「うちの話ばっかりやったな。堪忍。そう言えば最近幹部の首に値がついてる言う話を聞いたけど。」
「幹部だけじゃない。平隊士でも斬ったら三両出るそうだ。どこの誰が金を出してるのか監察方が今調べてる。」
「物騒な話や。藤堂はんも気ぃつけて。」
「お初ちゃんも他人事じゃないよ。新選組にいること知ってる人は知ってるんだから。」
「いつの間にかうちも大層な御身分やな。」
藤堂は苦笑いしか返せない。
「平助。伊東さんが呼んでいる。」
突如出現した斎藤に初と藤堂はびっくりした。
「驚かさないでよ。もっとマシな出てき方はないの?」
「別に驚かそうとは思っていない。」
「全く…じゃあお初ちゃん、俺呼ばれたから行くね。」
「いっといで。話し相手は斎藤はんにしてもらうから。」
「おい、いつ俺がお前の話し相手になると言った。」
「まあまあ、座っとくれやす。」
その様子にふふっと笑った藤堂は、軽く声をかけて伊東の部屋へ向かった。
初の笑顔が自分以外の人にも向けられることに何とも言えない気分を抱えながら。
「あんたも殺生な奴だな。」
「へ?」
「何でもない。」
斎藤はため息を吐いた。
藤堂の初への想いに気付いていないのは本人くらいだ。
あの沖田でさえ知っているのだから。
「斎藤はん、最近は忙しくしてはるの?」
初はそんなことお構いなく話を振った。
「最近は別に。暇なくらいだ。」
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