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土方は伊東に懐いている者に重要な仕事は割り振らない。
それは『表向き』伊東を慕っている斎藤も同様で、以前ほど仕事を振り分けられなくなった。
その代わり四六時中伊東に付き纏っているのだが、さして怪しい動きがない以上、斎藤は暇なのである。
「そら良かった。」
「何故だ?」
「松本先生が人は休むんが大事や言うてはった。斎藤はんは頼まれたら断らへんさかい、無理してへんか心配や。」
「別に俺は柔ではないし、自分のできる範囲は弁えているつもりだが。」
「わかってます。念には念をと言うこと。お節介て思うやろけど、斎藤はんは新選組にとって大事な人や。うちは心配性やさかい。」
「確かにお節介だな。」
むっと初が頬を膨らませた。
「斎藤はんのいけず。」
それに対して斎藤はにやりとした。
そしてスッと立ち上がった。
「お前も体に気をつけろ。お前のような陰の立役者のおかげで新選組は回っているんだ、みんな新選組にとって大事だ。」
初は驚いて目を丸くする。
そしてにっこりと笑った。
斎藤は寡黙で何を考えているかわからないことが多いが、その言葉はいつも嘘がない。
それだけに気遣いの言葉が嬉しいのである。
「やっぱり斎藤はんはいけず。」
「何故そうなる?」
「斎藤はんはいつもええとこ取りや。」
「訳がわからん。」
くすくすと笑う初に怪訝な視線を向ける斎藤。
その視線を受けても尚笑いは収まらない。
やがて諦めたように斉藤はその場を去っていった。
目立つ仕事も目立たぬ仕事も多い新選組で、そのどちらでも重要な任務を受け持ってきた斎藤。
そしてこの先も新選組を彼の話抜きで語ることはできないほど必要な存在になっていく。
斎藤の苦難の運命を、初はもちろん、本人でさえもまだ知らない。
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