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後ろで殺気を感じながら沖田はわからぬ程度の速歩きで屯所まで急いでいた。
名前どころか顔もわからない者に仇だ何だと言われて斬りかかられるのは別に珍しいことではない。
ただし、刀を合わせずに済むならそれに越したことはないので、相手に刀を抜く隙を与えないようにして帰りたい。
しかし今日の相手は少し計画性があったらしく、手前からあからさまに進路を妨害する者が現れた。
こうなったら止まるしかない。
「沖田総司だな?」
そう言って囲む男たちは五人。
「そうだと言ったら?」
カチッと男たちが鯉口を切る音がした。
「こっちも生活がかかってるんでね。悪いが死んでもらう。」
不穏な空気を察した町人がその場から離れていく。
「賞金狙いですか?」
若干呆れを滲ませて、沖田も鯉口を切った。
「やぁっ!」
抜き打ちで斬りかかって来たのを難なく避け、さっとすれ違った時向かっていった方が倒れた。
仲間たちが強張る。
「峰打ちで気絶しただけです。でも次は容赦しない。彼を連れてここから去れば今なら見逃してあげますが?」
そんなことを言われても、抜いた刀を簡単には納められない。
自分たちから挑んでおいて逃げるわけにはいかず、されどむやみに勝負にもいけず。
男たちは沖田の殺気をひしひしと感じながら、刀を構えていた。
すると通りの奥が俄かに騒がしくなる。
「まずい、逃げるぞ!」
気を失った男を見捨てない辺り、まだ仲間思いで気骨はあるようだ。
「逃すな!追え!」
騒がしさの要因である新選組隊士が追っていく。
捕まるのは時間の問題だろう。
それを確認して沖田は刀を納め、隊士たちを率いていた男に向いた。
「ありがとうございます。いいところに来てくれて助かりましたよ。左之さん。」
「いいところに来たって…お前、俺たちのこと待ってただろ?」
「一人で何人も追いかけ回していられませんからね。」
「ったく今日は何事もないと思ってたのによ。」
あともう少しで屯所という所でこの騒ぎだ。
原田の隊の者たちも、顔には出さないが組長と同意見だろう。
それをわかっているので沖田は、すみませんね、と頭を下げた。
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