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「お前たちは世の中の闇や陰を知らない。それは悪いことではないし、むしろ普通で、そうあるべきだ。」
「ちょっと待ってよ、俺だって…」
「お前にも生まれでいろいろあったかもしれない。任務で人も斬った。それでもお前は綺麗だ。見捨てられることなく大切に育てられて、お前自身その道から外れなかった。真っ直ぐに信じられる思想や考えがある。」
納得いかない表情の藤堂に、斎藤の言葉を永倉が引き継ぎ言い聞かせる。
「お前や伊東さんみたいに真っ当な人間だって新選組には必要だ。だがそれだけではどうしようもないこともある。土方さんは道を外してでもやると決めた。それだって正しいことじゃない。結局何が正しいかなんてわからないんだ。」
「…何となく、言ってることはわかるよ。でも俺はそこまで割り切れない。」
藤堂は目を伏せた。
「割り切れる必要なんてねえよ。」
「…でも、こんなんだからいつまでも総司や一に敵わないんじゃないの?」
「それは違うな。」
斎藤が間髪入れずに答えた。
その即答ぶりに驚きながら、永倉も同意する。
「前の総司の言ったことを気にしてるなら、あれは忘れていいぞ。あの時は総司もいっぱいいっぱいだっただけだ。」
反論する気は起きなかったので頷きはしたが、藤堂は三人との壁を感じた。
「何だかんだ言ってるが、実際伊東さんや土方さんが何を思ってるかなんてわからないよな。」
「少なくとも副長は自分の預かり知らぬところで何かされているのが嫌なんだろう。」
「何だよそれ。そういうのは逆に土方さんの十八番だろ?」
「案外似たもの同士なのかも知れねえぞ。あの二人。」
わいわいと話す三人との距離をひしひしと感じる。
初めから自分の居場所は試衛館になかったのだ。
藤堂には皆で志を持って京に来た頃のことが夢のようにしか思えなかった。
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