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八月、彼岸の入りももうすぐなのに残暑は厳しい。
暑さ寒さも彼岸までというがそれは本当だろうかと疑いたくなる気候である。
「ちょっと話がある。」
そう言われて初は土方の部屋へ呼ばれた。
「話とは?」
「彼岸の墓参りをしたいと言っていた件だが。」
「やっぱり、難しいでしょうか?あかんかったらええんです。」
「彼岸の日はいろいろ駆り出されそうでな。前日でよければ妥協してもらいたい。」
「それくらい何の問題もあらしまへん。むしろ我儘聞いてもろて、感謝しとります。」
「付き添いは総司だ。俺から声はかけておくが、お前からも頼めよ。」
「承知しました。」
「盆に行けなかった分は俺のせいにして謝っておけ。」
「いやや、冗談やめてください。」
初は笑って受け流した。
土方の優しさに何だか兄を思い出した。
沖田にその日の事を頼みに行くと、あっさりと承諾してくれた。
「どうせ土方さんの言うことには逆らえないし、僕はついていくだけだからね。」
「おおきに。お彼岸には御萩たくさん作るわ。」
「いいよ、気にしないで。御萩なんてたくさん食べるものでもないし。」
「せやけど春には島田はんと原田はんなんかは牡丹餅を仰山食べてはったえ。」
「あの人たちと一緒にしないでよ。」
病のことがなくてもあの二人ほど甘いものは食べられない。
想像しただけで胃がもたれそうで沖田は眉を寄せた。
「堪忍。まあ、それは置いといて、実家のお墓は壬生の頃より遠くなってまったさかい、朝のうちには出たいんやけど。」
「わかった。朝餉が済んで少ししたら行こうか?」
「そうしてもらえると助かります。」
まさかその日に問題が起きるなど思いもせずに、初は柔らかに微笑んで礼を言った。
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