その時は突然に

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 雷に打たれたような感覚というのはこういう事を言うのだろう、と思ったのは後になってからだ。  子供たちと遊んでいた和やかな時、その瞬間は突然訪れた。  家族ごっこをすることになり、食事という名の、割れた茶碗に入った葉っぱや砂を提供する子供たちに付き合っていた。  何の気なしに、ふと外を見ると、刀を差しながらも、髪も髭も整っていない浪人たちが通りかかった。  父と兄の仇、と判断するのにかかる時間はほとんどなかった。  新選組で過ごすうちに、哀しみも癒えてきたとは言え、思い出すことだってあるし、夢にだって出てきた。  忘れたくても忘れられない。  初は呆然としながらも立ち上がった。 「何しとるん?お食事中に立つんはお行儀が悪いです。座りよし。」  母親役の少女が注意する声はもう聞こえない。  自分と仇以外、意識に入って来なくなった。  墓参りの直後、こうして見つけるのはただの偶然ではないはずだ。  そう思って初は、はっとした。  ここで逃してはいけない、と走り出すのに戸惑いは少しもなかった。 「えっ!?どこ行くん?」 「おーい!止まって!!」 「総司や!総司を呼んでこな!」  後ろで騒ぐ子供たちの声は、初には蝉の声と変わらない、ただの音と化した。  浪人たちを追い越したところで、初は正面に立ち塞がった。 「おまん、何じゃ?」  当たり前だが、彼らは突然目の前に立った初を怪訝な目で見た。 「やっぱり、間違いあらへん。」  事件当時、店から出てきた三人のうちの背の高い者と前を走っていた者の二人だ。 「何を言うとるがか?斬られても文句はないんじゃろなぁ?」 「やめちゃぁ。頭のおかしか女子じゃき、放っておくんが一番ぜよ。」  初は息を整えながらも、キッと彼らを睨んだ。 「うちが放っとかん!あんたらは父上と兄上の仇や!」 「はぁ?何のこっちゃ?」 「あんたらが忘れてもうちは忘れへん!人殺して、金も奪うような奴らは万死に値するわ!」  無謀にも初は一応与えられていた懐刀を抜いた。 「言わせておけば!我慢できん!」  浪人たちは大刀を抜いた。  どんな阿呆でも初の死は想像できる。  初自身も、ここに来て、自分の置かれている状況を理性的に見ることができた。
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