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振りかざされる二つの大刀を前に、手に握る懐刀はただの飾りでしかない。
死を目前にして恐怖などを感じることもなく、ただ鈍く光を反射する鉄の塊を呆然と見上げるだけだ。
何もかもを諦めた、その時だった。
ガンッと音がした後、キーンと甲高く嫌な音が響いたのを耳が捉えるのと同時に、初は地面に倒れ伏していた。
一瞬自分に何が起きたのか分からず、砂埃舞う地面を見つめていた。
それでもすぐに現実に戻り顔を上げると、視界に沖田の背中が飛び込んできた。
「うちが放っとかん!あんたらは父上と兄上の仇や!」
沖田はこの時、まだ初たちまでの距離はあったが、この声をしっかり聞き取ることができ、この状況に納得した。
だとしても自分を呼んでくれればいいのに、と思う。
しかし、今の初は沖田の想像の遥か上を超える域にいる。
「あんたらが忘れてもうちは忘れへん!人殺して、金も奪うような奴らは万死に値するわ!」
沖田はその信じられない光景に幽霊でも見た気分になった。
女が大の男二人に懐刀で立ち向かうなんて実際幽霊より珍しいかもしれない。
しかしそんな悠長なことを言ってられる場合ではない。
沖田が追いついたのはちょうど浪士たちが刀を振り下ろす瞬間だった。
間に合わない、と咄嗟に思った沖田は左手で鯉口を切ると、右手で刀を抜きながら左手で目一杯初を突き飛ばした。
右手一本では流石に二つの刀は受けられないので、一瞬合わせただけで後は滑らせるようにして軌道を変える。
「格好つけてやって来たんはええが、そん女が悪いんじゃち。関係ないんはすっこんでおるが賢明じゃ、どきや。」
「申し訳ないけど、僕もあなたたちに用がありそうなんですよ。」
「あぁ?」
肺を病んでいるにも関わらず、あれだけ走って咳の一つも溢さないのは沖田の努力の賜物である。
それがいいかどうかは別であるが。
そしてそんな沖田にとって間合いさえ取れてしまえば二人など敵ではない。
自分から仕掛けるとあっさり峰打ちで制圧してしまった。
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