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「為三郎!」
事態が収束したのを感じとり、恐る恐る、でも好奇心には勝てない様子でゆっくり近づいてくる子供達のうちの一人を沖田は呼んだ。
「死んどる?」
「生きてるよ。でも目を覚ますかもしれないから二間くらい開けておこうか。それより為三郎にお願いが。」
「お父ちゃん、呼んで来よか?」
「八木さんじゃなくてもいいけど、この人たちを縛れそうな縄を二つと、西本願寺に三人応援を寄越すように使いを出してもらいたい。」
「わかった。」
「やっぱり一人じゃ危ないからみんなで行って。」
「一人で行けるで。自分の家なんやさかい。」
「いいから、ね。為三郎が隊長だ。」
為三郎はまだ少し不満そうだったが、みんなを連れて八木家へ向かった。
「大丈夫?」
上体は起こしているが、そのまま放心状態の初に沖田は声をかけた。
右手はぎゅっと懐刀を握ったままだ。
それを沖田が指一本ずつ離していく。
やっと初の目は焦点が合い、浪士たちの姿を写した。
「彼らは重要参考人で話を聞かなくちゃいけないから屯所に連れて行くよ。」
「生きとるの?」
「うん。」
「うちが殺したらあかん?」
「駄目だよ、そんなの。」
「うちの家を襲ったんや。」
「その話も聞かなくちゃ。それに土佐出身の食い詰め浪人は色々怪しいから。」
「早よ死んでほしい…いや、うちが殺す…」
そう言った初の瞳は暗かった。
そんな顔を見たくなくて沖田は視線を懐刀に戻す。
「そう言うことは言うもんじゃないよ。」
「せやけど、酷いことした奴は生きとって、真っ当に生きとった人は殺されとる。それにうちはあの日から今日まで仇をとるために生きて来たんや。」
初の瞳はまだ暗い。
「本当に?」
光を失った瞳に無理やり自分を写すように覗き込みながら沖田は問うた。
「本当にそうだったの?」
沖田と初の視線が絡むと、初の瞳から涙が溢れた。
沖田は驚いたが、懐から手ぬぐいを出して渡す。
初は無言で受け取った。
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