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しばらくの間安静にするようにと言われ、暇を持て余すかと思われた初だったが、実際はそうでもなかった。
まず、話を聞いた松本良順が、これを機に学んでおくといいと言って様々な書物を送ってくれたおかげで、読破するのに相当な時間のかかりそうな医術書に囲まれることになった。
また、新選組の面々が見舞いに部屋を訪れてくれる。
藤堂は大層心配してくれているようで、甲斐甲斐しく世話をしてくれ、井上も細々としたことにまで気を配ってくれる。
永倉や原田はやって来ては初を揶揄っては大笑いして去っていくのだが、おかげで退屈しない。
近藤や山崎などはもともと可愛がってくれているが、今の状況が不憫に思うのか、過保護に様子を見に来てくれる。
勘定方の河合が会計を見るのを手伝わせてくれたし、賄い方も部屋まで食事を運ぶ際に話し相手になってくれる。
土方、沖田、斉藤は他に比べたら頻度は限りなく少ないが、それでもたまに顔を出しては菓子を置いていってくれた。
ある種騒ぎの要因とも言える土佐の浪士二人は、新選組や奉行所でいろいろ訊かれた後、土佐に送られることになった。
そのことは斎藤が知らせてくれた。
「土佐勤王党の一員だったらしい。あれは土佐では手酷く弾圧されたらしいから、あの二人も死んだ方がましだと思うことを何度もされてから最終的には殺されるのだろう。」
「そう…」
「どうだ?ざまを見ろとすっきりしたか?」
斎藤の問いに初は首を振った。
彼らが死んでも、どんな目にあっても、恨みはそう簡単には消えなかった。
万が一自分の手で始末できたとして、清々しさを手に入れることはできなかっただろう。
「仇討ちとはそんなものだ。武士でもないお前が戦おうなど思わん方がいい。」
「よう、わかった。忘れる必要はなくても、ずっと囚われとったらあかんのやて。」
それを聞いて斎藤は部屋を出ようと立ち上がった。
「それにしても、斎藤はんは優しいなぁ。」
「何だ、急に?」
「教えてくれて、おおきに。うちはもう大丈夫や。」
それに対する返答を持ち合わせていない斎藤は、一瞬迷ったようだが何も言わずに部屋を出てって行った。
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