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「お初ちゃん!あんたは入ったらあかん!見んほうがええ!」
隣の髪結いをしているお時さんだ。
「離して!あのお侍たちがうち襲ったんやろ!父上たちが怪我してはるかもしれへんやん!」
持っていたものを全て落とし、止めるお時さんを振り切って店に入った。
「父上?」
まず目に飛び込んだのは血を流す父、そして少し奥に同じようにして兄が倒れている。
「お医者や。お時さん、早くお医者呼んできて」
「あかん、お初ちゃん。もう、無理や」
「そんなことない。早くしないとほんまに父上たちが死んでまうやないの」
きっと二人ともまだ生きている。息していないように見えるのは、きっと涙のせいで細かく見えないからだ。
「落ち着いて。かわいそうやけど、お二人は、もう。」
お時さんに言われてそのまま崩れ落ちる。涙が止まらない。
それでも、バチン!と乾いた音にハッと我に返った。
音がした方を見ると義姉、つまり兄の嫁が番頭を平手打ちにしたようだった。
「何であんたが生きとんの?うちの人もお義父上も斬られて、何であんたは生きてるんや?!何で金も主人の命も盗られてるん?あんたは番頭なのに何しとった?!」
お時さんが今度は義姉を止めにいく。
「若奥様も気持ちはわかるけど今番頭さんを責めたらあかん。番頭さんはうちの人がさっきお奉行様呼びに行ったさかい、その相手をしなさい。お二人はとりあえずうちにおいで。今日はどっちにしろうちに泊まらなあかんやろから。」
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