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お時さんは店も商売どころじゃなくなったからといって閉め、夫の喜助さんとともに二人で泣いている所に黙ってそばにいてくれた。
もう涙が出てこなくなるまで泣きじゃくった後、奥にいた義姉がぽつりぽつりと一部始終を語り出した。
「壬生浪やて言うとった。」
「壬生浪が何でうちに?」
「金を出せ言うて。義父上が、いきなり言われてもうちには今すぐ出せる金がないからまた出直してきてくれ、言うて頭下げて、そしたらいきなり斬りかかってきたんよ。怖くなってもう見れんかったけど、音だけ聞いたところやとすぐにうちの人も斬られて、番頭が殺されるんが怖なって千両箱一つ出したんや。あれはもうすぐ来る人のためのお金やったから義父上達は出さんかったのに。」
義姉の怒りの矛先が番頭に向かいかけていたのを喜助さんが一番向かうべき場所に戻す。
「何も命まで盗らんでもいいのに。丸腰の商人を斬るやなんて」
そこで皆黙ってしまった。いくら相手が京で嫌われている壬生浪だと言ったって武士に対して町人ができることなどない。
きっと義姉だってそれがわかっていて悔しいから番頭を叩いたのだ。泣き寝入りするしかないのだと誰だってわかる。
残念だけどどうにもならない。しばらくうちにいなさい、と喜助さんが言ってくれた。
葬儀やその後の店のことなどは喜助さん夫婦と番頭が中心になってやってくれた。
店は女二人にはどうにもならないから辞めることになり、最後の始末は番頭に全て任せた。
義姉は実家に戻った。
そして私は、
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