24. あなたの隣に

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24. あなたの隣に

「……と、いうことがありまして」 「秋野はこれから苦労するだろう。自業自得だ。ざまぁみろ」 天利さんが鼻で笑いながら悪態をついた。 天利さんがされてきたことを思えば、この悪態なんて可愛いもんだ。もっと言っていい。 「河瀬さんは何だかオーラみたいなものが怖い人なんですけど、仕事は出来る人でした。なんていうか、天利さんに似たものを感じましたね…完璧というか」 「そうなのか。……俺よりも?」 「天利さんが一番です!!」 「はは、ありがとう。ごめんな、言わせたかっただけだ」 「可愛すぎます!!」 「そうか?」 はっ、声に出ていた。 いつもは言わないように我慢してたのに。 「お前ら……客がいないからって俺の前でいちゃつくな。余所(よそ)でやれ」 「何だ、來斗。お前が心配するからわざわざ紹介しに来たんだぞ」 「はいはい、成就して良かったな」 來斗さんがコップを磨きながら応え、天利さんは満足そうな顔で会話をしている。 ちなみに俺と天利さんは今、來斗さんの店にいる。 祝いとのことで、貸し切りの板が外の扉にかかっていて、お客さんはいない。 どうやら來斗さんは俺たちのことをすごく心配してくれていたらしく、報告がてら来ることになった。 「あの!俺、天利さんを幸せにします!」 「……。俺に誓われてもな。親でも神父でもねぇぞ」 「俺も菅谷のことを幸せにするよ」 「天利さん……!!」 「だから、余所でやれ、余所で」 想いが通じ合ってからというもの、天利さんは俺に甘えるような柔らかい表情をしてくれるようになった。可愛すぎる。どうしたらいいですか。 「最初はとんでもねぇ奴に引っかかったと思ったんだがな」 「そういえば、どうして來斗さんは俺とのことを知っていたんですか?とんでもねぇ奴、とは具体的に……?」 「いや、ほら、菅谷……俺はお前に好きな女性がいると思っていただろう」 「あ、はい。誤解ですけどね!」 「その誤解をすべて來斗にそのまま伝えた」 「あっ、つまり、俺がめちゃくちゃ酷い奴になってたんですね?!」 「まぁ、そうだな」 「体目当てのゲス野郎なのかと思ってたぜ」 酷い。何が酷いって、それが本当なら俺はだいぶヤバい奴だ。來斗さんにも秋野さんと同じような奴だと思われてたのか。 「離れるか、彰良に骨抜きにさせるか、どっちかにしろよとは言った。ま、距離を取るのがいいと思ってたぜ」 『体目当てだからやめとけ』って俺のことだったのか!!ショックすぎる。というか、弟くんの誤解も解かないといけないんじゃないかな。 「來斗は良い奴だよな。一時期、俺はお前を避けていたのに」 「あの馬鹿と付き合ってた頃だろ?」 「ああ」 「いいさ。お前も追い詰められてたしな」 「來斗…」 「別れた直後のお前は目も当てられなかった。それが、まぁ、今は幸せそうに笑ってんだから、避けられてたことくらい、何とも思わねぇよ」 二人の間には、俺が立ち入ることができない絆がある。そんな風に感じた。 「來斗さんと天利さんって、仲がいいですよね」 「そうか?」 「本当にお二人は何も……?」 「ねぇよ」 「そもそも來斗はノンケだしな」 「あ、そうなんですね」 「あのなぁ、俺は結婚もしてるし、可愛い妻も娘もいるんだよ。ほら、見てみろ。世界一可愛いツーショットだろう」 そう言いながら來斗さんがスマホの画面を見せる。 そこには満面の笑みの女性と女の子が映っていた。 「可愛いですね」 「だろ。やらねぇぞ」 來斗さんに凄まれ、苦笑する。 家族をとても大切にしてるんだなぁと伝わってきた。 「大丈夫です。天利さんを泣かせるようなこと、しませんよ」 「そうかよ。それならいい。……秋野みてぇなことしたら、俺が捻り潰しに行くからな」 「き、肝に銘じておきます」 本当にされそう。原型とどめないくらい捻って潰されそう。怖い。 「菅谷はそんなことしないさ」 「天利さんはどうして俺のことそんなに信じてくれるんですか…?いや、信頼を裏切るようなことはしませんが!」 「どうしてって、まぁ、俺が心から好きになった相手だからな」 「うぅ…っ!幸せすぎて泣きそうです」 顔を覆うと優しく頭を撫でられた。好き。 「さて、じゃあ明日からまた仕事を頑張ろうか」 「そうですね。そういえば明日、営業に行ってほしいところがあるって部長が……」 その日、俺と天利さんと來斗さんは、夜が更けるまで話をして、食べて、飲んで(ノンアルだけど)、今までの誤解をすべて解いていった。 天利さんの弟の舜くんにも、その先輩の河瀬くんにも、悠吾にも報告をしなくちゃ。 こんなにも幸せにしてくれた天利さんにも、たくさんたくさん好きだと伝えよう。 絶対に幸せにするという固い決意を、俺はこの夜決めた。
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