11. 色々な、はじめまして

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11. 色々な、はじめまして

突如として現れた謎の人物にモヤモヤしながら、次の日、とりあえず普通に出社した。 思い悩んでも仕方ないし。 重たい気持ちを引きずりながら自分の席に鞄を置く。 天利さんはまだ来てなかった。珍しい。 「ああ、菅谷。いいところに来た」 「部長。おはようございます」 「おはよう。早速で悪いが、来週のプレゼン資料をまとめてもらっていいか」 「分かりました」 「天利からは休みの連絡を受けているが、資料自体は整えてあるそうだから大丈夫だろう」 「え、天利さんお休みなんですか?」 「ああ。体調不良らしいな」 驚いた。天利さん、滅多に休むことないのに。 途端に、昨日の謎の人物の顔が浮かんだ。 いや、待て、天利さんは体調不良。別にあの人と会っているわけじゃない。 ひとまず、部長に言われた仕事に打ち込もう。 他の仕事もあるし、のんびりとはしていられない。 仕事に忙殺されれば、うじうじと悩むこともないはずだから。 ** 実際のところ、仕事の量が多くて、確かに考える余裕はなかった。ただ、金曜だからか同僚たちはみんな早めに退勤していって、周りのデスクにも人がいなくなった時、悩みをまた思い出してしまった。 「俺も帰るか……」 はぁ、とため息を吐きながら荷物をまとめる。 いつの間にか、退勤時間はとっくに過ぎていた。 人がまばらになった職場を見渡し、天利さんの座席に目を向ける。 (体調…大丈夫かな) 次に会えるのは月曜日。 その時までには、俺の心のモヤモヤを晴らしたい。 土日は何かスポーツで汗を流すのも良いかもしれない。近くの土手で走ろうかな。 そんな俺を嘲笑うかのように、街は幸せそうな人が溢れてる、ように見えた。 あーあ、俺、だいぶ卑屈になってるな。 でも、眩しすぎて悲しくなってくるところにわざわざ長居することはない。 ちょっと横道を通って、駅まで最短ルートで歩こう。 「ここら辺、ほんと人少ないよな……」 街灯が少なくて薄暗いところだから、自然と急ぎ足になる。 「……うっ」 さらに裏路地に入ると、目の前に、狭い道に堂々としゃがんで話してる少年たちを二人見つけてしまった。どう頑張ってもすれ違ってしまう。 いや別に、座り込んでる少年の全員が不良とか、そんなことは思わないけど……いや、こんな時間にこんな若い子がうろついてるのは不自然か。 やっぱり不良の子なのだろうか。 尻込みをして立ち止まると、座っている一人と目がばっちり合ってしまった。 「何だぁ?お前」 そして不良少年Aが俺に声をかけてきた。 隣の不良少年Bが立ち上がる。やばい。 まさかとは思うけど、カツアゲされたりとかしないよな。そんなこと、簡単には起きない、よな? 慌てて鞄を抱えるように掴んで後退りをすると、どん、と何かにぶつかった。 「いてぇんだけど」 「ひぇっ?!す、すいません」 振り返ると、金髪の……不良少年A・Bよりも年上らしき青年が立っていた。ピアスもいくつかついているし、着ているものも気合の入った柄物のジャケットだ。 ……こ、これは囲まれたか?! 「おい、あんま通行人を威嚇すんなよ。お前らだけの道じゃねーんだぞ」 あ、まともな感じだ。ちょっとだけ安心する。 「このおっさん、怖がってんじゃねーか」 おっさん?!?! それは聞き捨てならない。 (確かに君たちより年上だろうけど、俺まだ20代だから!) 「すんません、こっちジロジロ見てっから…」 「邪魔だからだろ。おら、どけ」 「はーい。すんません、天利先輩」 「俺に謝ってどうする」 金髪の青年が「通ってどうぞ」と言いながら先導してくれる。 でも、ちょっと待って。 今、不良少年Aは何て言った? 青年の後ろを歩きながら、そればかりが頭の中を占める。 「ここ出たら大通りだから」 「ありがとう……助かった」 「あんま暗い道通んない方がいいよ。あいつらはそうでもないけど、中には金せびる奴もいるから」 やっぱりそういうことが起こるんだ?! 今度からは遠回りでも明るいところを通ろう。 いや、そうじゃなくて、 「君、天利くん…っていうの?」 「……そうだけど。何?」 「もしかして、お兄さんいる? あ、俺はこういう者です」 名前は聞くわ、兄がいるかと聞くわと不審者丸出しにしてしまったので、とりあえず名刺を渡す。 青年は眉間に皺を寄せながらも、一応名刺を受け取ってくれた。 「……ああ、あんた、兄貴の会社の人なんだ」 「やっぱり!天利さんの、弟……?」 想像してたのと違う。全然違う。 天利さんとは180度違う容姿にビックリした。 この子が、10歳離れてる、天利さんが愛してやまない可愛い可愛い、弟。 今までの天利さんの言動を思い返していると、弟さんは何か考え込み、閃いたとばかりに目を輝かせた。 「なぁ、あんた、このあと暇?」 「え。暇というか、家に帰るところだけど」 「じゃあ暇だな。少しだけ俺に付き合ってよ」 「あ、ちょ、どこに?!」 ぐいっと腕を引っ張られ、半ば引きずるように連行される。「大丈夫、大丈夫」と言ってるけど、全く安心できない。 そして連れてこられたのは、普通のファミレスだった。遅い時間のせいか、あまり人はいない。 弟さんは迷わず中に入っていき、俺を引き連れたまま窓際のテーブル席で立ち止まった。 そこには、片耳にわりとゴツいデザインのピアスをつけている黒髪の青年が座っていた。 俺たちに気づくと、イヤホンを外し、俺を(いぶか)しげに見た。 「すいません、河瀬先輩! 遅くなりました」 「いや、そんなに待ってねぇけど……その人誰だよ?」 まぁ、そりゃ、そうなるよな。俺も突然見知らぬ人が現れたらビックリする。 というか、俺は何のために引っ張って来られたんだろうか……。
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