19. 鍵をかけた想いは②(天利視点)

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19. 鍵をかけた想いは②(天利視点)

その日から、秋野は俺に構うようになった。 図書室で話しかけるのはもちろん、一緒に帰ったり、休日に遊びに出かけたり…… 正直、振り回されることが多かったと思う。 俺の意思なんて関係なく、秋野は好き勝手に俺を連れ回した。 けれど一番救えないのは、こんな風に振り回されていたのに、いつの間にか秋野のことを好きになっていた俺だと思う。 俺は……周りには隠していたが、恋愛対象は男だ。 告白されたことはないし、するつもりもなかった。 秋野のことも、まぁ振り回されながらも一緒に居られればいいかな、くらいに思っていた。 ** 関係が明確に変わったのは高1の終わり頃。 その日も、いつものように図書室で本を読んでいた。そして隣には、当然のような顔をして秋野が座っていた。 油断はしていた、と思う。好きだったし。 ふと目線を秋野に移した瞬間、 「え……」 ちゅ、という音と共に秋野の唇が離れた。 呆けていると可笑しそうに笑われた。 どん、と秋野の胸を押すと、手首を握られる。 「何だよ、拒否すんなよ」 「なん、突然……何…っ」 「なぁ、彰良の恋愛対象って男だろ」 「……。違います、よ」 「もっと言うと、俺のことが好き。どう、当たった?」 ドクドクと心臓が早鐘を打ち、嫌な汗が背中を流れた。顔に出ていた?いや、ポーカーフェイスは得意だ。取り繕うのだって上手い。今まで家族を含め、周囲にバレたことはない。 「何でそう思うんですか」 「俺を見る目がさ、俺のこと好きって言ってる」 「……自意識過剰では」 「だから、お前の望むことをしてやるよ」 「俺は何も望んでな、」 キッ、と睨むと、秋野はまた強引に俺に口づけた。頭の後ろを固定され、あっと思った瞬間には舌まで入れられて。 抵抗しようと思えば出来た。 でも、出来なかった。 (……好きだって言っても、受け入れてくれるのか) 初めてだった。俺の気持ちに気付いて、しかも望むことをしてやるだなんて言ってくれて。 今思うと、秋野はその時から、もっと言うと出会った頃から高圧的で、自分本位な奴だった。 秋野は俺の気持ちに向き合うなんて、微塵も考えていなかっただろうに。 下校のチャイムが鳴る。 秋野は「また明日な」と言って去っていった。 俺はというと、初めてのキスに参っていた。 恋は盲目というのは、こういうことをいうんだろうな。 「……あのさ」 「うわぁ?!」 そして、その時、後ろから声をかけられたんだ。 誰もいないと思ってたのに、居たんだよな、一人だけ。 「な、なん、…っ」 「お節介かもしれねぇけど、図書室でいちゃつくのはやめとけよ」 「!!!」 それが來人(らいと)との出会いだった。 最悪のタイミングで会ったなと思う。 どうやら來人は、図書室でうたた寝をしていたらしい。 ちなみに、そこから來人とは知り合いになって(俺は口止めをするつもりだった)、同じクラスなのもあり、話をしていく内にいつの間にか恋の相談役になってくれた。 顔はいかついし口は悪いけど、良い奴なんだよ。 ** 進級して、いつだったか。確か、秋頃。 俺はあることを來人に相談した。 「なぁ、來人」 「んー?」 「俺さ、セックスが苦手みたいだ」 「……いや、それを伝えられて、俺はどうしたらいいんだよ。練習でもさせろってか」 「まさか。ただの愚痴だから聞いてくれ」 「ああ」 「声がダメだと言われて」 「声?」 「男の声は萎えるから我慢しろと。それに、正直痛さしか感じない。中に出すのも嫌だと言ってるのにやめてくれない」 來人は眉間のシワをさらに深くして俺を見た。 言いたいことは分かる。すごく。 「別れろ」 「……でも、俺のことが必要だって言ってくれるし」 「お前なぁ、賢いくせに分かんねぇのか? そいつ、ただ単に性欲発散したいだけだろ。たぶんお前のことオナホくらいにしか思ってねぇよ」 「な、何てことを言うんだ」 「好きとか愛してるとか、そういう言葉もねぇんだろ」 「……ない」 「別れろ」 「俺は、別れたくないんだ」 「そいつにしがみつくことねぇよ。世の中広いんだし、お前のこと大切にしてくれる奴はきっといる」 その時の俺はたぶん、意地になっていたと思う。 いつか振り向いてくれるんじゃないか。 大切にしてくれるんじゃないか。 本当は俺のことを、俺と同じくらい好きでいてくれるんじゃないか。 そんなことばかり考えていた。 実際、優しくしてくれることもあった。 気まぐれだったんだろうけど。 「言ってみろよ、『俺のことは好きか』って。それで答えなかったり誤魔化したりしたら、マジでそいつはクズ野郎だ」 來人の言葉にムッとしたのは事実だ。 だから、問いただすことに決めた。 秋野の本心が知りたい。 その時はその一心だった。 「幸範(ゆきのり)先輩、俺……」 「きゃっ!」 「……え」 まぁ、いつもの部屋に行ったら、衣服の乱れた秋野と女が抱き合ってるところに鉢合わせたんだが。
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