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25. 台風のせいで恋人と泊まることになりました※
―――翌日
今日は部長に頼まれ、営業先をいくつか回った。
そして途中から天候が崩れてきて、最後の場所を回ったところで、ついにどしゃ降りに。そういえば、天気予報では台風が近づいてると言ってた。
いやもう、バケツをひっくり返したような雨風で、当然のように電車は止まった。
そして現在、二人で近場のホテルに駆け込んだわけだけど……
「申し訳ございません、セミダブルのお部屋なら空いているのですが…」
ホテルのフロントの人にそう告げられ、二人で顔を見合わせ、笑ってしまった。
「構いません。チェックインの手続きをお願いします」
天利さんは二つ返事でそう答え、手続きをしてくれた。そして二人してずぶ濡れのまま、ホテルの部屋へとたどり着く。
「どちらかが雨男だな」
「そうかもしれませんね」
苦笑しながらタオルを手渡す。
以前泊まった時は緊張していたけど、距離が縮まった今は、少しだけお互いリラックスしているような気がした。まぁ、濡れて肌が透けている天利さんは目に毒だけれど。
「あ、シャワーお先にどうぞ」
「心遣いはありがたいが、今回はお前が先に入ったらどうだ」
「いやいや、天利さんが風邪を引いちゃう方が俺は嫌なんで!」
「……。」
天利さんは少し考え込むように目線を反らした。
目をパチパチさせながら首を傾げると、今度はじっと見つめられた。
「ええと、天利さん?」
「…じゃあ、一緒に入るか」
「一緒…、…いいい、一緒に?!?!」
とんでもない発言に腰を抜かしそうになった。
ついつい声が大きくなってしまう。
固まっていると、天利さんは笑いながら「冗談だ」と言って浴室に入っていった。
(な、何だ。冗談か……)
ホッと胸をなでおろす。
付き合ってから1週間以上経った。
俺たちはあれから、体を重ねるどころか、キスもハグもしていない。ちょっとだけ手はつないだけど。
それもこれも、体目当てではないことを証明するためだ。でも、正直俺はもう限界だった。せっかく両想いになったんだし、本当はもっと深いところまで触れたい。
「がっついてるって思われたくないんだよなぁ…」
そりゃ、プラトニックな関係もいいとは思う。
そういう愛の形だって素敵じゃないか。
でも、俺は煩悩を捨てきれない。抱きしめたいし、キスもしたいし、……その先だって。
ただ、天利さんが嫌がることはしたくない。どうしよう、俺の煩悩を知ったら引くかもしれない。
そんなことをぐるぐると考えていると、天利さんが浴室から出てきた。上気した肌が艶めかしい。
これ以上見たらヤバそう。
「あ、あの、じゃあ、次入ります!」
逃げ込むように浴室へと入る。
ちょっと冷たいけど、水をかぶって自身を落ち着かせる。
(……平常心、平常心…)
天利さんに嫌われたくない。
隣にいられるなら、俺はいくらだって我慢する。
しばらく自分を落ち着かせたあと、体を洗って浴室を出る。部屋に戻ると、天利さんはあの時のように窓辺の椅子に座って窓の外を眺めていた。机の上には飲み物が2つ。
「今日はソフトドリンクな」
「あはは、了解です」
飲み物を手に取り、椅子に腰掛ける。
外はすごい嵐だ。これは帰るのがまた明け方になりそう。
「今日も疲れただろう、菅谷」
「そうですね、だいぶ回りましたもんね」
「先方はお前のプレゼンに好印象を持っていたようだ。努力してる結果だな」
「ありがとうございます!天利さんに教えてもらった成果ですね!」
「ん? そうか。それは教えた甲斐があったな」
それから、いくつか仕事の話をして、昨日の來人さんの店のこと、弟さんのこと(やっぱりこの時の天利さんは饒舌だった)、思いつく限りのことをたくさん話した。
「……。」
「……。」
そして、沈黙。でも悪いものじゃない。
気恥ずかしいような、くすぐったいような、そんな気持ちになる。二人っきりになったのが久しぶりだからかもしれない。
「明日も早い。もう寝るか」
「あ、…そうですね」
二人で立ち上がる。
いやでも、いくら大きいサイズのベッドといったって、一緒に寝るわけだし…いやもう俺の家で一緒には寝たけど、さっきから心臓ドキドキ鳴りっぱなしだし、自制心を総動員させないとダメだな……
たくさんのことが頭をよぎる。
だから正直、足元がおぼつかなかった。
「わっ?!」
「おっと」
転ぶ瞬間、天利さんが引っ張ってくれた。
でもそのせいで、天利さんを巻き込んだまま二人してベッドに倒れ込むことになった。
「……ってて…」
「大丈夫か?」
「あ、はい…、……」
全然、大丈夫じゃなかった。
だってこの体制、…天利さんのことを押し倒す形になってるじゃないか。
「………天利、さん」
「ん?どうした」
しばらく硬直したあと、声をかける。天利さんは柔らかく微笑んで受け止めてくれてる。
可愛いしカッコいいし、いい匂いもする。
「……」
そっと頬を撫でる。天利さんは何も言わず、じっと俺を見つめてくれる。
少しだけ、だから。
ゆっくりと顔を近づけ、ちゅ、という音をさせてから、すぐに離す。俺はたぶん、真っ赤になってると思う。
「……す、すいません、寝ましょうね!」
体を離し、距離を取ろうとする。
すると、くいっと天利さんに服を引っ張られた。
「!え、えっと、どうかしましたか?」
もしかして嫌だったんだろうか?!
せっかく我慢してたのに、こんなところでダメになるなんて。
「……続きは?」
「え」
「俺はお前にもっと触れたい」
一瞬、何を言われてるのか分からなかった。
え。触れたい、とは?
「それとも、"大したことじゃない"から、したのか?」
「!!!そ、それ!覚えてたんですか?!お酒に酔って記憶飛ばしてたんじゃ」
「確かに眠気には負けたが、お前が俺にキスしたことは覚えている。忘れたなんていうのは、菅谷が勘違いしただけだ」
ムスッとした表情で目線を反らされる。
可愛すぎる。どうしよう。
「菅谷、お前が俺を思いやってくれてるのは分かる。でも、俺はお前としたくないなんて、一言も言ってないからな」
「そう、ですね」
「それとも抱けない理由があるのか?その、…興味がなくなったとか」
「まさか!めちゃめちゃ抱きたいですよ!」
「そんなにか」
「はっ、本音が」
天利さんが可笑しそうに吹き出し、目を細める。
そして、するりと俺の首に腕を回す。
「あま、りさ…」
「好きだよ、菅谷」
そこでぷつんと、我慢の糸はあっけなく切れた。
**
触れ合う素肌が気持ちいい。
座る天利さんの太ももあたりをそっと撫で、昂りに口づける。
「…っは、きもちい、ですか?」
「ん……」
こくこくと天利さんが首を縦に振る。
何度も口づけたり、吸ったり、舐めたり。
そんなことを繰り返していると、天利さんの昂りがどんどん硬度を増していった。
合間にジェルを使いながら後孔にも指を入れる。
ぐにぐにと押したり、ゆっくり抜き差ししたり。
次第にぐちゅぐちゅとした音が響くようになり、俺の昂りも限界を訴えてきた。
「痛かったら、言ってくださいね」
「…大丈夫だ。だいぶ、ほぐしてくれた、し」
「ゆっくり入れますから」
ゴムをつけ、ぐ、と力を入れて挿入していく。
慎重に慎重に、痛さを感じさせたくなくて、丁寧に。
「全部、入り、ました…っ」
「ん、ぁ……ああ、そう、だな。いっぱい、だ」
「っ!!」
天利さんが、嬉しそうに自身の下腹部を撫でる。
とんでもない光景に、俺の昂りがさらに持ち上がってしまう。
少し呼吸を整えてから、ゆるやかに律動を始めた。
「あ、…っ、う、ぁ…」
「は、はぁ、……天利さ、…」
腰を掴み、ぐっぐっと押し込むように動く。
ビクンッと跳ねる場所を重点的に攻め立てると、潤んだ瞳で天利さんが俺を見た。
「ぅ、あ……そこ、だめ、だ…っ、気持ちよすぎる…っ」
「は、俺も、俺も気持ちいいです…っ」
「ひ、ぁ…っ」
ぐっと体を押し付け、口づけを落とす。
舌を吸い、絡め、一つに溶け合うように深く深く堪能する。
天利さんは苦しそうにしながらも、背に腕を回し、懸命に俺に応えようとしてくれる。可愛い。好き。この人を余すところなく愛したい。
「……、る…」
「ん…っ、何ですか、天利さん」
「……海晴」
「!!」
キスの合間に、天利さんが愛しそうに俺の名前を呟く。その声を聞いて、きゅう、と胸が締め付けられるように感じた。
「あま……、彰良、さん」
それに応えるように、俺も名前を呼ぶ。
すると嬉しそうに微笑んでくれた。
「…あっ、ん、ん…っ」
「は、ぁ…っ、すいませ、もうもたな…っ」
律動のスピードを早め、ぎゅっと強く抱きしめる。
(この人を、幸せにしたい)
色々な感情が入り混じって泣きそうになったのは、内緒だ。
**
翌朝。晴れ渡る空を見上げながら、俺は心が満たされていたのを感じていた。少し前まで、こんな風に清々しい気持ちになれるなんて考えてなかった。
「電車はきちんと動いてるらしいな」
「あ、良かったです」
天利さ、……彰良さんは、ビシッとスーツを着こなし、いつものようにカッコいいスタイルに戻っていた。
昨日とのギャップが感じられてドキドキしてしまうのも仕方ないと思う。
「…」
「天利さん?」
「……名前は呼んでくれないのか?」
恋人にそんなことを言われて嬉しくない人がいるのかな?!可愛すぎるんですが!
「あ、彰良さん」
「ん?なんだ?海晴」
にこにこしながら名前を呼ばれて舞い上がってしまう。
「……なんて、な。会社では名字のままにしようか」
「は、はは、ビックリされちゃいますもんね」
「二人っきりの時のほうが特別感もあるし」
「特別…」
「……なぁ、海晴。俺はお前が思ってるより、海晴が好きだ」
きゅ、と指先を握られる。
「だから、これからも、その……よろしく頼む」
「もちろんです!!」
両手で彰良さんの手を握る。
必死な様子に、彰良さんは一瞬キョトンとしたあと、とびきり優しく微笑んだ。
「ありがとう。……好きだよ、海晴」
「俺も、俺も大好きです、彰良さん!」
どうかいつまでも、そばに居させて。
終
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