ボクの愛しい冷たいキミ

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 パーシィ・ブラウンは人に触れられるのが嫌いだ。  ある者は美しい容姿を得た有名税のようなものだと慰める。ある者は触れるぐらいいいじゃないかと恨み言を口にする。ある者はただただしつこくつきまとう。  なんと言われようが、パーシィは人に触れられたいとは思わない。最後に他人に触れられた記憶が誰のものかは思い出せなが、あの…掌が触れて他人の体温がパーシィの体に伝わるおぞましさ。じわじわと相手の体温が自分の皮膚に滲みこみ、浸透し、奥の奥まで侵される嫌悪感。  相手の皮膚の、独特の柔らかさが自分の腕に乗っかっているのも不快だ。どんなに乾いていても、ぺたりと吸い付くようにこちらの皮膚にくっついて――ああ、あの、ミミズが百匹も千匹も背筋を駆け回るおぞましさをどう説明しよう。  パーシィは親にだって触れられるのが嫌いだ。だが決して、父や母が嫌いなわけではない。母の作ってくれるミートパイは大好物だ。父が相手をしてくれるゲームはいつも白熱する。  隣人のケイだって、ノリがよく人気者の彼はただ付き合うだけなら楽しい友人である。パーシィに触れないよう気遣ってくれるベスは最高のガールフレンドで大好きだ。  パーシィは他人が嫌いなのではない。ただ、触れられるのが嫌いなだけだ。  なのに、こそこそ、こそこそ…。  母は嘆く。 「どうして、パーシィは母親の私にも触れさせてはくれないのかしら…」  父は唸る。  「病気なのかもしれない、重度の潔癖症だとか。一度お医者様に見せてみようか」  ケイはこっそり陰口を。  「きっとあいつは人嫌いなんだぜ? お高くとまっていやがるのさ」  ベスは目を輝かせて。  「いつか私がパーシィを変えてあげるの。人に触れることは素晴らしいことなんだって」  全部見当違いなのだと、誰もわかってはくれない。  病気ではないし、お高くとまっているわけでもない。変えられることなど望んではいない。  たまにパーシィは人の中にいるのが嫌になる。そういうときは、家の裏にある海岸へと一人ででかけることにしていた。岩と岩がせめぎ合ってできた岸辺は人の視線からパーシィの姿を覆い隠してくれるのだ。そこで、心行くまで海を眺めると落ち着くのである。  ――それに最近、新しい友人もできた。  深海の青い髪と瞳、上半身は血管が透けそうな透明度の高い肌、下半身は虹色の鱗。全身を覆うのは貝や真珠の装飾品。新しい友人は人魚であった。
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