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かつん、かつーん、かつん。
今日も人魚は海岸で貝遊びに興じていた。かつん、かつん、と黒い貝が白い貝を弾き飛ばして、それを見た人魚は手を叩いて喜んでいる。
そうして近づいてくるパーシィに気が付くと、片手を振って挨拶。この挨拶の仕方はパーシィが教えたものだ。人魚は好奇心が旺盛だった。教えたものはすぐに吸収し覚えた。もし、海岸から引き揚げて、人間の町を散歩させたらどうなるだろう。きっと彼女は喜んでくれるに違いない。
だが、人魚は長時間海水に触れていないと、皮膚が乾燥して死んでしまうと聞いた。リアカーなり荷車に海水をはって、それに乗せて運ぶことも考えたけれども、人魚を海から引き揚げる必要がある。それには、彼女の体に触れなければならない。
パーシィは自然、人魚の体に手が伸びた。自分から誰かに手を伸ばすなど、いくら記憶を遡ってもこの時が初めてである。
人魚はきょとりと目を瞬かせて、しかしパーシィの手が眼前まで伸びてくると――ぼちゃんっ。
岩の上から海の中へ、そうしてすいすいと沖の方へと逃げて行ってしまった。後には彼女の遊んでいた貝殻と、手を伸ばしたまま制止するパーシィだけが残された。
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