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深夜、居間で母が嘆いている。父がその肩を抱いていた。
聞くつもりはなかった。トイレにいったらすぐ部屋に戻るつもりだったのに、自分の名前が出たものだから、パーシィはつい廊下で足を止めてしまったのだ。
「パーシィ…あの子、おかしいのよ。最近冷蔵庫の中のものがよくなくなるとは思ってたのだけれど、あの子が持ち出していたの。それも魚やエビ、イカなんかの生ものばかり。それを家で料理するんじゃなくて、生のまま海へ持ち出しているの」
父が母の不安を払拭させるようにその背を撫でている。
「海でなにか飼っているんじゃないのかい?」
母が顔を覆う。
「家のものだけじゃないのよ、お小遣いまで全部生の魚やイカに使い込んでいるみたいなの。
それだけ大量の生ものを食べる海の生き物ってなに? このあたりじゃイルカもアシカもいないわ」
母の声に泣き声が混じった。
「私、あの子が怖いわ。だってあの子、私にも懐かない。触れさせようともしない、すぐ逃げる。抱きしめることもできない、嫌がる。常に距離を作る。
ねえ、ねえ、あなた。あれは本当に私たちの子なのかしら。
そもそも、本当にあれは人間なの?」
「おい、滅多なことを言うんじゃない!」
「だって、だって…私、あの子が怖いのよ。海へ行って、大量の生ものを手にあの子はいったい一日中なにをしているの? どうして、親である私たちになにも言わないの?
あの子、毎日生臭いわ。深い海の臭いよ。…私、怖いのよ」
「お前は疲れているんだ。お前がパーシィのことで悩んでいたのは知っている。ほら、今日はもう休んで、明日二人で考えよう」
それは見当違いなのだと、誰もわかってくれない。誰も、パーシィを理解してはくれないのだから。
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