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中庭のベンチに腰かけて私は、スマホにイヤホンを繋ぎ、画面をスクロールさせていく。ただなんとなくいじいじしながら、聞こえてくる生徒の声やつっかえつっかえな吹奏楽部の演奏を、BGM代わりにして過ごしている。スマホに用はないとわかっていながら、画面を見ていないと落ち着つかない。変な癖がいつの間にかついてしまった。
こうしていれば、ぼっちだと気づかれても満喫中だと思ってくれるだろう。
そして、私はぼっちではなく──
にしてもだ。今日は風が冷たくて肌寒い。最近だいぶ暖かくなってきたから、油断していた。ネックウォーマー持ってくればよかったなと少し後悔して、顔を上げる。
たぶん卒業生の記念樹のようなものだと思うんだけど、紅梅が二本だけ中庭に植えられていて、今日あたり見頃だろうなと当たりをつけていた。残念なことに満開とまではいかなくて、遠慮気味に縮こまって寒そうに咲いている。
ふぁん。
どっかでホルンの音がした。
「そこ。空いてる?」
私の声掛けんなオーラも虚しく、横から空気読めないですオーラ全開で近づいてくるのは、幼なじみのアキオだった。
私はできるだけ平静を装って「あ。うん」とぶっきらぼうに答えると、「どうも」と言って隣に座ってくる。
お互い浮かない顔しながら、
てんてんてん。
会話する訳でもなく。
てんてんてん。
黙々とスクロール、スクロール。
沈黙が続いてる。
ぷぁあん。
今度はトランペットが鳴った。
変な空気だよなと感じてるのは、もしかして、私だけなのかしら。
さもスマホに夢中で、めんどくさそうなフリして聞いてみる。
「またケンカしてるの?」って。
するとアキオの顔は「は?」って言いたげな顔してる、んだと思う。
見なくてもわかる。
それぐらいアキオとは長い。
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