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あの日以来、私は高校へ行くことはなかった。卒業式も欠席した。
そして、アキオもトモコも、私の前に現れることはなくなった。成仏したのか、それとも私が作り出した妄想なのか、私にはわかりかねた。
でも、ちゃんとトモコとはわかりあえたと思う。
公園のベンチに腰かけて私は、スマホにイヤホンを繋ぎ、画面をスクロールさせていく。それとなくいじいじしながら、お気に入りリストを再生して、桜の花を眺める。
満開だった。
もう、用はないとわかっていながら、ずっと出来なかったことをしよう。
アキオの連絡先を見てないと落ち着つかない。変な癖を断ち切るために、その削除しますかってでてる『はい』の部分に指をかける。
『削除しました』
画面を閉じて見上げると、鮮やかな桜色が、私の心を癒してくれた。
こうしてれいば、ぼっちだと気づかれても満喫中だと思ってくれるだろう。
そして、私はぼっちではなく、心の中に二人が居る。
けきょけきょけきょって、鳥の鳴き声がしてる。
桜の枝に一羽止まった。
ウグイスかなって目をこらしてたら、追いかけてきたもう一羽が隣にとまった。そのとき強い風が吹いて、イヤホンが耳から外れた。
薄目を開けてみると、桜の木の下にアキオが立っていた。
うん。そう。
なんとなく、会えると感じてたんだ。
私らは、毎年ここで花見してたもの。
「なあ。俺、気づいたんだ」
「うん」
「それでさ、たぶんユカに会うの、これが最後だと思う」
「うん」
「俺さ……」
この後に及んで口ごもる。
アキオらしい。
「やっぱ、いいや」
「はー?いまさらー?」
「あー。うー」
こいつのヘタレはよく知ってる。
アキオとは長い。
「俺、死んでた!」
「うん。知ってた!あはは。ごめん」
ブンブン首振って否定するアキオは、
「それと、俺、やっぱ……」
ほんとにずるい。
そんなにはにかんで、口をもごもごしながら、私のこと真剣に見つめてくるんだもの。
「ユカのことが好きだ」
「うん」
また泣きそうになるけれど、必死にこらえた。これが最後のバイバイだから。
「なぁ、ユカは俺のこと、ど、どう」
「はー?」
もう泣くのはやめた。笑っていよう。二人のために。そう決めたんだ。
だから、私は微笑んで言う。
「察しろし」
笑って答えた顔を桜に向けて見上げる。綺麗だった。涙がでるほど。
そんな桜の枝に、止まっていたはずの小鳥たちはもう、いなくなっていた。
END
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