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「そうじゃなくて」
「じゃあなんなのよ」
別にアンタのこと、興味なんかないんだけどねって付け足そうとして、止めた。ツンデレだとか勘違いされそうで。
「トモコのこと、わかんなくってな」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
その音が予想外に大きな気がして、アキオに聞かれちゃったかもと恥ずかしくなる。
ちらりとアキオを盗み見る。
すると不覚にも、思ってしまうんだ。
すごく、ずるいなと。
「はぁ」とか「ふぅ」とか物憂げにため息もらして、前屈みになって両膝に肘ついてる体勢で、その後ろ斜め45度から見るアキオの、この角度の横顔が、かっこよすぎなんだ。
伸びた前髪をうざったそうにして、目を細めて何気なく上向きに、遠くを見つめてる。その優しげな目元から、すっきりと通った鼻筋の、その下にちょこんとくっついてる女の子のような唇。先端の形とか、色とか、妬ましいぐらい綺麗だなと──これはまったく私の個人的な性癖がそうさせてるに違いないのだが──眼福なのだ。
アキオのくせにずるいのだ。
そんな彼を、マヌケにくち開いて見惚れてたら、急に振り返りざま「見すぎじゃね?」って言ってきそうで、慌てて目を逸そらした。
そしてそれから、女性的な顔立ちとは反対に、顎と喉仏のラインが妙に男っぽい色気があって、その残像に目がくらむ。
変な気になってくる。
いつもそうだ。調子を狂わされる。
だから、
「なんでトモちのところにいかないのよ?いまなら部活中だから、たぶん体育館にいるよ?」って遠ざける。
「男が一人、女バスの練習観てても変態だと思われるだろ?」
ごもっとも。
でも誰も気にしないんじゃない?って言いかけて、やっぱり私は言うのを止めて、「まあ。それもそっか」
つとめて素っ気なくスマホをいじいじ。
こんな弾まない会話より、よっぽどバスケのボールの方が弾んでて面白いと思うんだけど。あ、でもアキオは女子の胸の方か。なんて、前なら軽口たたけたんだけどな。
なんだろう、アキオとトモコが付き合うようになって、そんな軽口も言えなくなっちゃった。
ぴぃぴろぴぃい。
今度はオーボエかな。
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