さっしろし

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「なあ。それよかさ。ユカは好きなやつとかいないの?」 でたよ。 こいつの鈍度百パーの鈍感さ。 残念すぎるんだよなぁ。顔はいいのに。ふつう聞く?気づかないのってアキオとトモコぐらいだよ。 似たもの同士ってやつなんだろうな。きっと。 小中高とずっと同じ学校通ってて、同クラの時なんか「なぁ、あれをああしておいて」ってアキオが言えば「ああ、あれをああするのね?わかった」みたいな返し(・・)してたら、あんたら夫婦みたいねって言われてて、若い頃はいい感じなのかもって思ってましたよ。ええ。 でもアキオは、私のことなんてなんとも思ってなくて、親友のトモコといきなり付き合いだしてさ。ああ。だよね。トモコ美人だし、スタイルいいし、私も男だったら絶対告ってたと思うし。 お似合いだよ。正直。美男美女同士で。そんな間に挟まれて、いつも三人一緒にいて、どうしろと?私は介添人かな? どーん。どーん。 ティンパニーの低い音が響いてる。 空気読めないトークするの、私だからいいものの、トモコにもそんな感じなのかな。トモコかわいそう。 「あー。私はさ、諦めてる、そういうの。顔もスタイルも全然だし」 「そうか?オレはそんなことないと思うけど」 はー。女心わかってないわーって思う。この鈍感。 その言葉が私にどう影響するかなんて、想像もしてないんだろうな。 え、ほんと?お世辞でも嬉しいわーなんて流せるほど大人な余裕は、いまの私にはない。 だって、アキオ、あんたはもう、私の手の届かない人になっちゃったじゃない。 ワンチャンないのわかってるのに、期待しちゃうじゃない。 アキオが悪いわけじゃないんだけどさ、でも、できたらもう、こんな感じではさ、会いたくないなって、ぼっちでいさせてほしいなって思うの察しろし。 むしろ嫌いになって、なんとも思わなくなって、忘れちゃったら、どんなに楽なんだろうって考えちゃう。そんな私の気持ちに波風立てる、鈍感さ。大概にしろし。
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