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第1話
待ち合わせは、銀座三越のライオンの銅像の前。
私は今日のデートの相手をソワソワしながら待っている。会うのが久しぶりなので、楽しみで早く着きすぎてしまったのだ。
長いこと立っている私が、待ち惚けを食ったように見えたのだろうか…。さっきから見知らぬ男性にしつこくナンパされている。
「すみませんが、人と待ち合わせをしているので…」
「誰も来ないじゃん、俺に付き合ってよ!」
チャラそうな大学生ぐらいの年齢の男性が、馴れ馴れしく私の手を握る。だが私が振り払うよりも早く、背後から低い声が割って入ってきた。
「莉真に気安く触るな若造!」
振り返ると、私をナンパしていた男性の腕を、ダンディな老人が背後から掴み捩じりあげていた。
「なにすんだ爺! 痛た!? いだだっ…」
ナンパ男はイキって凄んだ。だが直ぐに痛みに負け、情けない声をあげ、すごすごと逃げていった。一瞬で戦力差を理解したのだろう。
「待たせたな莉真」
「久しぶりお爺ちゃん! 元気にしてた」
私は祖父に抱き着いた。大きな手が私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
筋骨隆々な鍛え上げた長身の体躯に、ロマンスグレーの髪。祖父にはスーツと革靴がよく似合っている。
「ああ、元気だとも! 莉真はまた可愛くなったんじゃないか」
「もう~お爺ちゃん、そんなこと言ってくれるのお爺ちゃんだけだから」
祖父は屈強だが能筋ではない。若い頃は民俗学を研究し大学教授をしていた。定年した今は、闇を祓う仕事をしているらしい。
霊とか?を祓っているみたいなのだが、孫に誇れるような仕事ではない、と言って詳しくは教えてくれないのだ…。
だから私は、祖父が仕事している姿を実際に見たことはない。
ハゲでもデブでもなくて背中も曲がっていない、LINEも使いこなす。こんな老人はそうはいないと思う。ビール腹で、『LINE使い方がよくわからないんだよ…』と早々に断念したお父さんとは違う。
そう、私のお爺ちゃんはカッコいいのだ!
そして私は、お父さんっ子ではなく、『お爺ちゃん!大好きっ子』に成長した孫だ。だが孫の私はコレと言って取り立てて語るところがない、平凡な女子高生なんだけどね。
「お爺ちゃん、どのお店から回る? それとも先にご飯にする?」
今日は東京に遊びにきたお爺ちゃんに、銀座を案内してあげる予定だ。
「う~ん、そうだなぁ…」
そう言って祖父が人混みを凝視して目を細めた。私にはみえない何かを視ているように、その視線が動いていく。
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