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フィンはシルキーの手を引いてバルコニーに連れてきた。
バルコニーから見える景色は一面の雪景色と満天の星空で、ロマンチックな景色であったが、あまりの寒さにバルコニーの外まで出てくる者はおらず、今はフィンとシルキーの2人しかいなかった。
吐く息が白くなるほど空気が冷たかったが、恥ずかしさで顔が火照ったシルキーにはその冷たさがちょうどよかった。
「落ち着いた?」
フィンはシルキーに尋ねると、シルキーは深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかして、大変申し訳ありませんでした。」
不快な思いをしたのはシルキーのほうなのに、過剰に謝罪してくる彼女をフィンは止めようとはしなかった。
むしろ短いシルキーの髪が頭を下げることでサラリと流れ、より尖った耳が強調されてしまい、そちらのほうにフィンは目がいった。
「……聞いてもいいかな? その耳はエルフだよね?」
指摘されたシルキーは自分の耳を手で覆うように隠し、こくりと頷いた。
「……母が妖精エルフで、私は人とエルフのハーフなんです。」
「ハニエル王国の貴族が妖精と結婚? あの国がそんなこと許すはずないよね。」
「私は……父の不義理の子です。父がエルフの能力欲しさに母に私を生ませました。」
不老長寿である妖精エルフ。
外見は尖った耳を持つ以外は人と変わらず、美しい容姿と強い魔力を持つと言われている。
そのためかハンターに狙われ密猟として高値で売られることも多く、商品としても人気が高い。
シルキーの母であるエルフもかつてシルキーの父親に買われ、無理やりシルキーを生ませた。
しかしシルキーは尖った耳と容姿以外はエルフの能力を受け継ぐことはなかった。
長寿であるはずの母親のエルフはやがて心を病み、枯れるように若くして亡くなった。
「ずっと……隠れるように生きてきました。学校には行ってません。勉強は家で家庭教師がつきました。家の外にも、ほとんど出たことがありません。」
(……たとえエルフとのハーフということを隠しても、その耳じゃオエナンサ魔法学校は入学を許可しないか。まして不倫の子じゃ、面目を守るために隠したくもなるだろう。)
フィンは小さくため息をついて、バルコニーの外を見た。
親戚であるカリヤの考えが透けて見えたフィンは、彼女の思惑がバルコニーの外に広がる銀世界を見ていたら馬鹿馬鹿しく思えて呆れて何も言葉がでなかった。
(……ようするに、僕と彼女、厄介者同士くっつけてしまおうってことか。僕たちをまとめて片付けられるし、家同士のつながりもできる。……まったく、良い活用方法だよ。)
フィンは景色を見たまま目をつぶると、冷たい風がフィンの瞼を撫でた。
その瞼の裏には先ほどのレオンとセシル、メリウスとクパードの4人の姿が思い浮かぶ。
「……ふっ」
フィンから思わず笑い声がもれ、シルキーが顔を上げた。
笑ったはずなのに、楽しそうでも嬉しそうでもないフィンの表情にシルキーは初めて不安を抱く。
「……結局、僕たちも同じってことか。」
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