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白銀の髪に碧眼の瞳の男性。
珍しくない色ではあるが、なぜか一層美しく見えるその見た目に、オズワールは月の魔女であるマリア・ソルエージュとのつながりを見出した。
パーティー会場でもっとも人に囲まれている男性は、足が悪いわけではないようで、おしゃれとしてシックな杖を持っている。
その男性に近づくようにオズワールが歩き出すと、ぐいっと腕を掴まれ引っ張られた。
振り向けば再び冷静な顔に戻ったテレサがオズワールを止めている。
「待ってください。」
「なんで止めるんすか、あれきっとソルエージュ家の当主でしょ。」
「ルネッタさんから聞いた話覚えていないんですか。ソルエージュ家の当主であるセシルさんの父親は何も知らないようだと言っていましたけど。」
「んなの、本当かどうかわからないじゃないですか。俺が実際に聞いて確かめて……」
「ただの見知らぬ教師に教えるわけがないでしょう。」
テレサは呆れたようにため息をつくと、周囲を見回した。
そして男性が作る人だかりを少し離れたところで見つめる、別の男性を見つけた。
「……家族のことは家族に任せましょう。私たちは別の方法を取ります。」
***
「こんばんは。お一人ですか?」
テレサが柔らかい声で優しく話しかけたのは、人だかりを見つめていた男性だった。
彼はテレサが話しかけるとあからさまに顔を赤らめ、照れたように会釈をする。
「私はテレサ・コゼットと言います。パートナーに約束を無下にされてしまって、もしお一人でしたらお相手いただけますか?」
「コゼット……も、もちろん、僕でよければ。」
美人に話しかけられ浮かれていた男性はテレサの名前を聞くとさらに嬉しそうに声を弾ませた。
テレサは巧妙に会話を混ぜながら、お酒と男性に勧めていく。
「すごい人が集まってますね。誰か大スターがいらしているのかしら。」
「……さあ、たいしたことない人だと思いますよ。」
人だかりの中心が誰なのかわかっているのに、テレサはあえて知らないふりをする。
調子よく話していた男性が中心人物の話題に触れた瞬間、表情を暗くしたのを見て、テレサはさらに話をすすめる。
「どなたかご存じなのですか?」
「知りませんか? ハニエル王国では有名な貴族ですよ。」
「そんな方がいらしているのですね。もっとお話を伺いたいです。」
「ソルエージュという……そんな奴らの話は置いといて、もっとあなたのことを知りたいな。」
不機嫌そうに途中まで言いかけた言葉を止めて、男性はなめまわすようにテレサの体を見た。
そしてテレサの腰に手をまわし、男性はズイッと近づく。
その無遠慮な手に男の下心が透けて見えたが、テレサは笑顔を張り付けたまま、決して表情を崩さなかった。
「手をださないほうがいいですよ。その人教師なんで。」
急に現れた男の声に驚いた男性は腰に回された手が反射的にひっこめた。
そしてテレサと男性の間にできた隙間にオズワールは体を割り込み、意地悪そうにニヤリと笑う。
「ちなみに俺も教師なんです。一応生徒たちのためのパーティーなんで、そういうのは大人の礼儀としてよろしくないのではないですか?」
「な、なんだね君は……っ」
「あんまり大声だすとみんなに聞こえちゃいますよ。」
声を荒げようとする男性の肩を組み、オズワールは周りに聞こえないように小声で話した。
「教師の身としては生徒の教育上よろしくない人はご退室を願いたいところですが……ここで目立ちたくないでしょう? いろんな権力を持った人たちの間で、あんたは変に名前と顔を覚えられてしまうことになりますから。」
「な、なにが望みだ……っ」
「あなたが知る、ソルエージュ家のことを教えてください。」
「なに……?」
「あなたは周囲の羨望な眼差しとは違った目でソルエージュ家の当主を見ていました。まるで彼らソルエージュ家を憎んでいるかのように。」
「あんたが知ってること、全部話せ。」
***
オズワールとテレサは男性をパーティーの端の方に連れてきた。
誰にも聞こえないようにするために目立たない場所で、男性を逃がさないようにテレサとオズワールで挟むように並んでいる。
「……私自身、ソルエージュ家に恨みも妬みも何もありません。ただ、私からそのような感情が現れてしまっているのであれば、それはいわゆる刷り込みによるものです。」
「刷り込み?」
「幼い頃からソルエージュ家を許すなと言われ育ってきました。私の父も、その父も、その様に今まで何代にも渡って言われ受け継がれてきたようです。」
「どういうことだ?」
妙に曖昧な言い方をする男性にオズワールが聞くと、男性はさらに言い辛そうに口ごもった。
何と言えばいいか迷っている男性に、テレサが「なんでもいいので、話してみてください」と優しく促す。
「私も本当にあったかどうかわからない……夢物語のような話だと思っています。昔、私の家系に生まれた優秀な魔法使いをソルエージュ家に奪われた過去があるようです。」
「優秀な魔法使い?」
「優秀……と言うには足りないほど素晴らしい稀有な魔法使いです。かつては同じような魔法使いが数人いたようですが、彼らすべてがソルエージュ家に取り込まれたと。」
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