魅惑のダンスパーティー

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魔法使いや魔女の力の源である魔力。 魔力は人だけでなく、動物や植物、風や水や地面や星、この世のすべてありとあらゆるものに存在する。 ただ人だけが魔力を操れる力を手に入れ、それを魔法と呼んだ。 人は己の魔力を使い、自分以外の魔力に干渉することで魔法を成立させる。 ただし魔力の量は人それぞれ個人差があり、魔力が切れてしまえば魔法が使えず回復しなければ体を動くことすら困難になり、最後には命をも脅かす。 魔力は魂に備わると言われるほど魔力の強さは遺伝的影響が大きく、時代の流れと共に魔力が強い家系が次第に権力を持ち始め、今では貴族と呼ばれるようになった。 現代では魔法の研究が進み、学校で魔力のコントロールや効率の良い使い方を学ぶことができるおかげで昔よりも魔力による差は縮まったものの、まだまだ魔力の強さが将来を左右するところは多い。 なかでもソルエージュ家は昔から魔力の強さが桁違いだった。 誰よりも美しく見える白銀の髪と碧眼を持つ彼らは、ソルエージュの血が濃ければ濃いほど強い魔力を持ち、そして国をも及ぼす権力を手に入れてきた。 しかし、ある時1人の魔法使いが誕生する。 彼はソルエージュの血をひいていたが、それでは説明がつかないほど底なしとも呼べる魔力を持っていた。 そして同じように並外れた魔力を有する者が当時他の家系にも少なからず存在していた。 皆は彼らを神童として敬っていたが、ソルエージュ家だけは違った。 遺伝子の突然変異か神様の気まぐれか、彼らは自分の中にある限りある魔力だけでなく、周囲の無尽蔵に存在する魔力を体内に吸収し、自分のものとして制限なく使う体質を持つ魔法使いや魔女がいることにソルエージュ家は気が付いた。 魔力を吸収して魔法を使う体質、さらに魔力を吸収し続けても耐えられる身体を持った彼らはソルエージュ家にとって希望の光と同時に脅威になる存在だった。 自分たちの家系に現れるならまだしも、それ以外の家系に強い魔法使いが現れてしまえば、自分たちの地位を揺るがしかねない。 たいした魔力がない一族なのに、突然ずば抜けた魔力量を持つ稀有な魔法使いが誕生する。 ソルエージュ家の人々はその力を自分たちだけのものにしたかった。 魔力が強い者の噂を聞けば、すぐに自分たち一族の一員とした。 結婚させたり養子縁組させたりと、実力がある者を吸収するかのように一族に取り込んでいく。 そのすべてが同意の上でなりたっているわけではなく、中には無理やり手に入れた者もいた。 家族を奪われた悲しみは一部の貴族で現代にも受け継がれているほど、当時のソルエージュ家のやり方は非道だったことを物語る。 ときには国境を跨ぎ、強い魔法使いたちを取り込んでいったソルエージュ家はやがてハニエル王国で1番の貴族となった。 そしていつの間にかソルエージュ家以外で稀有な魔力を持つ魔法使いや魔女は生まれなくなった。 ソルエージュ家もその体質を他の家系に渡さぬようにと、今ではソルエージュの純粋な血をひく者だけが受け継ぐようにしている。 それでも必ずしも稀有な魔法使いが誕生するとは限らず、何十年も存在しないときもあれば、ソルエージュ家の家系に2人以上同時に存在したときもあった。 いつ誕生するかどうかは神のみの思し召しであり、ソルエージュ家でもそこまで操ることができなかった。 *** 「……噂によれば、もう何十年もそう言った体質を持つ魔法使いはソルエージュ家でも誕生していないと聞きます。だから本当のことかわからない、夢物語のような話だと言ったのです。」 男性の話を聞いたテレサとオズワールは童話のような話に顔をしかめた。 「あれだけの権力を持つ家系です。きっと彼らへの妬みや恨みを持つ誰かが尾ひれがついてこのような妙な噂話にまでなってしまったのだと思います。私がお話できることはすべてです。」 「……ありがとうございました。大変興味深いお話でしたわ。」 テレサがお礼を言うと、男性は居心地が悪そうにそそくさと2人の前から姿を消した。 男性の話を受け止めて、テレサとオズワールは考え込むように黙る。 「……どう思いますか?」 「もしあいつの話が本当だったとして……月の魔女がその体質を持っていたと言われればしっくりくる。」 「そうですね……呪いの魔法をいくつも生み出した稀代の魔女……あらたな魔法を生み出すには強い魔力が絶対条件です。それにマリア・ソルエージュの父親オスカー・ソルエージュはマリアの兄と姉が誕生した後、15年もたった後に後妻を迎えてマリアを生ませている。その理由もわかる気がします。」 「もしかして、ルネッタ自身にもその体質が……」 月の魔女であるマリアの孫であるルネッタ。 マリアの血を直接ひいているのであれば、その可能性は高いとオズワールが言いかけたが、その前にテレサが首を振る。 「それはないと思います。今では月のカケラでルネッタさんも強い魔力を持っていますが、ルネッタさんがその体質であれば、月のカケラがないときでもその才能を現れていたでしょうから。」 「そうか……。」 テレサの言葉に安心した表情を見せるオズワール。 しかし、テレサの表情は変わらず、影を差していた。 「ですが……不安なことがあります。」 「え……?」 「マリア・ソルエージュが稀有な魔女であるならば、彼女の死亡によりソルエージュ家はその血筋が途絶えてしまっています。彼女は子供を残していないとソルエージュ家は思っているはず。ですが、実際はそうではなかった。マリアの孫であるルネッタさんがいる。ルネッタさん自身はその体質を持たずとも、彼女が将来生む子供や孫にはその可能性はある。」 テレサの顔色がどんどん暗くなっていくのがオズワールにはわかった。 テレサはいつでも冷静であまり表情が変わらない人だと知っているからこそ、事態は深刻だとオズワールは感じる。 「……ルネッタさんの存在を知ったら、彼らは欲しがるのではないでしょうか。ルネッタさん自身を。」 どくん、とオズワールの心臓が嫌に鼓動した。 そしてかつて婚約者を命の危険に晒し、自分を利用した天文台の悪魔を思い出す。 カエサル・シュタットはルネッタに対して言っていた。 『世界の平和の均衡が崩れる』と。 「……ソルエージュ家だけじゃないかもしれません。」 「え……?」 「世界が……ルネッタを狙ってる。」
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