冷たい人

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耳をつんざくかのような爆音 身体を突き上げるかのようなドーンという衝撃 夢の中から一瞬のうちに現実へと引き戻された私は、何が起きているかを咄嗟に理解することは出来なかった。 パニックに陥った隣のベッドの妻に対し、部屋に待つよう半ば怒鳴るように告げる。 寝室のドアを開けようとするも、爆発の衝撃で家全体が歪んでしまったためか、中々開こうはとしない。 何とか蹴破るようにして寝室のドアを開ける。 そして、階段から一階へと降りようとした。 その階段は、濛々とした白煙で満たされていた。 鼻を袖口で覆いながら、手探りで階段を降りる。 満ち満ちた白煙からは、花火のような臭いがした。 私の家の中で、何か爆発が起きたようだ。 それもガスなどではなく、火薬が原因の爆発が。 何とか一階に降りる。 爆発の元は、どうやら客間のようだ。 客間には、半ば無理矢理に泊まらせた部下の冨澤がいるはずだった。 冨澤は大丈夫か?! 客間の扉は、その枠ごと廊下へと吹き飛ばされていた。 「冨澤!!!」 そう叫びながら客間があった筈の空間を覗く。 客間があった筈の空間は、白煙と熱気、そして、むせ返るほどの火薬の残臭で満たされていた。 客間は完全に廃墟と化していた。 床板は全て吹き飛び、壁や天井は見る影も無く焼き焦げていた。 家具調度の類は全て木っ端微塵だ。 視界を遮るように立ち籠める白煙の中、私はこの部屋に居たはずの冨澤の姿を探し求める。 「部長・・・」と、呼び掛ける声が聞こえた。 「冨澤!!!」 そう叫んだ私は、声のした方向へと駆け出す。 木材やら家具の残骸に足を取られつつ、まるで転がるようにして。 立ち籠める白煙の中を、遮二無二に、一心不乱に、そして無我夢中で。 漸く、残骸の中に横たわる人影を見出す。 「冨澤、大丈夫か!!!」と叫ぶように呼び掛けつつ駆け寄る。 裸足の足の裏を何かが突き破り、そして、何かが溢れ出す。 不思議なことに、痛みは全く感じなかった。 白煙に視界を遮られ、冨澤の姿はよく見えなかった。 両手で冨澤の肩を掴み、そして抱き起こす。 掴んだその両肩は、何故かゾッとするほど冷たかった。 「部長、私は大丈夫ですよ。」 普段と変わらぬ淡々としたその声で、冨澤は俺に話し掛ける。 白煙の向こう側から。 安心させるようなその声色は、私の耳には、最早虚言のようにしか響かなかった。 抱き起こした冨澤には、その両手両足が無かったのだ。 戦慄くような両手のその震えを、私は止めることが出来なかった。 徐々に白煙が引き、黒々とした輪郭しか見えなかった冨澤の顔が次第に見えてきた。 私は絶叫した。 絶叫するより他に無かった。 思考も何もかもが停止した頭の中に、何故か醒めた自分がいた。 人の絶叫って意外と長く続くものだなと、その醒めた自分はぼんやりと思っていた。 冨澤の声が聞こえる。 「部長、大丈夫ですから安心して下さい。」 私の絶叫は不意に途切れた。 そして、その時に意識も途切れたようだった。
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