冷たい人

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ただ、まだ十分に合点が行かないのが、彼を送迎する装甲車もどきの車両、そしてSP紛いの付き添いの者達の存在だ。 そのことを冨澤に問う。 冨澤は淡々と答える。 「あぁ、彼らは保険会社から派遣されたエージェントなんですよ。」 何で保険会社からエージェントが?! 冨澤は珍しく、その声に喜色を含ませて答える。 「実は私、経営の悪化したホテルに大人気なんですよ。私がホテルに宿泊すると、必ずと言って良いほど、何らかの災害が起きてしまいます。昨夜みたいに不発弾が不意に爆発したり、トラックが突然突っ込んできたり、極端な場合は飛行機が墜落してきたり。」 「宿泊客の居ないホテルに私一人が泊まっていると、そのホテルが全壊してしまうような災害がよく起きます。そうするとですね、ホテルが災害保険に入っていると、保険金をガッポリ貰えちゃうんですよ。」 「ガッポリ貰った保険金を元に、そのホテルを再建するか、あるいはホテルはもう閉鎖して、保険金はそれまでの借金返済に充てるかはその時のホテルのオーナー次第ってとこですね。」 あぁ・・・だから冨澤は矢鱈と保険金のことに詳しかったのか。 冨澤は続ける。 「でも、そういうのって、保険会社からしてみたら、たまったものじゃない訳です。だから保険会社としては、私に不景気なホテルの経営者が接触などしないように、私の周囲に張り込みをさせている訳です。送り迎えをしてくれたり、昨夜みたいに災害に遭った場合には迅速に動いてくれたりと助かる部分も多いので、私もそれを受け入れている訳です。また、保険会社から生活する分には困らない程度の手当も貰っていますからね。」 なるほど。 ようやく色々なことに合点が行った。 一気に色々な話を聞いたせいか、私は疲れてしまったようだ。急に眠気が押し寄せて来た。 私の様子を察した冨澤は、それではと行って病室を辞そうとする。 彼がこうも気の利いた立ち回りが出来るのも、きっと様々なセンサーの類を内蔵しているからだろう。体温や分泌される水蒸気量、その他様々な要素で相手の様子を観察し、相手の心情などを分析し、最適な行動を取っているに違いない。 矢張り、優秀な人材だ。 果たして「人」であるかどうか微妙だが。 ふと、疑問が浮かぶ。 その疑問を今まさに病室のドアを開けて立ち去ろうとする冨澤に投げかける。
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