冷たい人

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「何故、君はこの会社に入社してきたんだね?」 冨澤は答える。 「社長に頼まれたからですよ。社長が保険会社と懇意だったみたいで、保険会社経由で、何卒我が社にと頼み込んで来られました。この部署に配属されたのも社長の指示です。」 そう言い残し、冨澤は部屋を去って行った。 一人病室に残された私は、冨澤の言葉の意味を考える。 そして、合点が行った。 怒りで体が震える。 あの社長め! 私が密かに次期社長の座を狙っていたことを察したに違いあるまい。 そして、何とか私を会社から追い出そうなどと考えていたのだろう。 そんな時、自宅以外に泊まったら災いを引き起こす冨澤の話を聞き付けたに相違あるまい。 私がよく若手社員を自宅に招くことも社長の耳には届いていただろうから、渡りに船とばかりに冨澤を入社させ、そして、私の部署に配属したのだろう。 あわよくば、私に災いをもたらすために。 ただ、いつもながら肝心なところで情報収集が足りなかったり、詰めが甘かったりするから、災いが及ぶのは冨澤本人程度だということには考えが至らなかったのだろう。 三十年以上も真面目に勤め上げてきた社員に対し、なんて冷たい仕打ちなんだ。 社長の冷たさに私は一人、憤慨する。 何という冷たい人だ。 血圧が上がったためか、負傷した足の裏がジワジワと痛み出した。
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