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「では皆さん、また新学期に会いましょうね!」
「はーい!」
教壇からの教師の呼びかけに元気な声が答えた。五年生の水沢拓の通う小学校は終業式を終え、明日から夏休みに入る。
「拓! お昼ごはん食べた後、うちで遊ばねー?」
日直の号令が終わるや否や、健人が拓を誘った。
「ごめん。午後は勉強するってお母さんと約束しちゃったんだよ…。」
拓はすまなさそうに言った。
「おっけー。」
その声には心なしかそっけなさが含まれているように拓には感じられた。
健人は、すぐに別のクラスメートに声をかけ始めていた。
五年生になってから、拓は中学受験に向けた勉強を始めていた。拓の通う小学校では、一学年の内、毎年おおよそ三分の一の児童が中学受験し、三分の二は公立中学へと進学するのが通例だ。
拓自身、中学受験をするという家の方針には賛成だが、仲の良い友達が受験をしないため、こうして何度も遊びの誘いを断っていた。
「断ってばっかり…。大丈夫なのかな…。」
拓はつぶやいた。
いつも誘ってくれることを嬉しく思いつつも、健人を恨む気持ちも生まれた。このやりとりの後は気持ちが重くなって自己嫌悪に苛まれるからだ。
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