夏の友達

12/13
前へ
/13ページ
次へ
   その夜、拓は布団に入ってから沢での出来事を思い出していた。  つかんだ悠哉の腕が冷たかったこと。擦りむいた膝から血が出ていなかったこと。山から下りるとき、一回も自分の方を向いてくれなかったこと。何年もこの山にいると言っていたこと。人の家には遊びに行けないと言っていたこと。おばあちゃんとおじいちゃんを知っている風だったこと。来年の夏休みに遊ぶ約束をしてくれなかったこと。  拓は急に不安になってきた。  いつもは次の日に遊ぶ約束をして帰るのに、今日は、明日会う約束をしていないことに気がついた。  もう、悠哉に会えないのではないか、そんな気がした。  拓はその考えを振り払うように、布団の中で強く膝を抱いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加