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その夜、拓は布団に入ってから沢での出来事を思い出していた。
つかんだ悠哉の腕が冷たかったこと。擦りむいた膝から血が出ていなかったこと。山から下りるとき、一回も自分の方を向いてくれなかったこと。何年もこの山にいると言っていたこと。人の家には遊びに行けないと言っていたこと。おばあちゃんとおじいちゃんを知っている風だったこと。来年の夏休みに遊ぶ約束をしてくれなかったこと。
拓は急に不安になってきた。
いつもは次の日に遊ぶ約束をして帰るのに、今日は、明日会う約束をしていないことに気がついた。
もう、悠哉に会えないのではないか、そんな気がした。
拓はその考えを振り払うように、布団の中で強く膝を抱いた。
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