夏の友達

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 病院の雰囲気は拓が想像していたより明るく、開放的だった。  きょろきょろと周りを見回す拓の手を引きながら、直樹は妻の友美(ゆみ)の病室に入って行った。 「拓、おかえり。」  友美は今日の昼、終業式を終えて帰宅した拓に言うはずだった言葉をかけた。 「ただいま…!」  拓は言うなり母の元へ駆け寄った。  病室のベッドの上に両手を置いて、拓は心配そうに母の顔を見た。 「お母さん、病気になったの…?」 「大丈夫。ちょっと休めば元気になるよ。」  不安そうな拓の頭を撫でながら、友美は笑顔で返した。 「検査はまだなんだろ?」  直樹が見舞客用の椅子に荷物を置きながら聞く。 「うん、精密検査は明後日から。さっき先生が見た限りでは深刻な病気ではないみたいよ。でも念のため、ね。」  拓は存外元気そうな母の姿を見て、安心した様子だった。 「拓は、明日から夏休みだよね。」  友美は拓の手を優しく握った。 「お母さんしばらく入院することになって、お父さんは毎日夜までお仕事でいないでしょ? 拓はもう五年生だからなんでもできるけど、拓のごはんを作ったり、何か困ったときに相談できる大人が近くにいないと、お父さんもお母さんも心配なの。」  拓は、母の言わんとすることを理解しようと注意深く耳を傾けた。 「だからお母さんが退院するまでの間、おじいちゃんとおばあちゃんの家にお泊まりするのはどうかな?」  友美は拓の顔を気遣わしげに覗き込みながら言った。 「一人で、おじいちゃんとおばあちゃんちに…?」 「そうよ。おじいちゃんもおばあちゃんも拓に会えるの楽しみだって言ってたよ。」  拓は父親のほうを見てみた。直樹も頷いていた。 「わかった。おじいちゃんとおばあちゃんちに泊まる。」 「よかった。お父さんとお母さんに協力してくれてありがとう。何か困ったことがあったら、いつでもお父さんに電話するのよ。」  拓は、何か自分に特別な任務でも課されたかような気持ちになり、使命感を湛えながら頷いた。
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