夏の友達

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 翌土曜日、拓と直樹は車で五時間ほどかけて、友美の実家に着いた。  車中、拓は表情に不安を滲ませていたが、緑豊かに変わっていく景色を眺めながら次第に期待が高まっているようだった。    友美の実家は木造の二階建て家屋だ。家の前に砂利が敷き詰められた庭が広がり、片隅の花壇ではひまわりが太陽に向かって眩しそうに咲いていた。  直樹はゆっくりとバックしながら敷地内に入り、車を停めた。  車輪が砂利を踏む音を聞きつけて、友美の母親である恵子(けいこ)が突っ掛けを履いて家から出てきた。 「直樹さん、拓、いらっしゃい。」  恵子はにこにこしながら二人を迎えた。 「お母さん、突然すみません。しばらくの間、拓がお世話になります。」 「おばあちゃん、こんにちは。」  拓は少し恥ずかしいような、緊張したような面持ちで挨拶をした。 「こんにちは、拓ちゃん。さぁ、二人とも遠慮しないであがってちょうだい。暑かったでしょ。今麦茶出すからね。」  直樹に連れられて、拓は家の中に入っていった。  家の中は少し薄暗く、少しひんやりしていた。  家中の窓が開けられており、家の裏の山から涼しい風が流れ込んできている。  拓は恵子が出してくれた、ガラス製の湯呑みのような涼しげな入れ物に入った麦茶を飲んだ。乾いた喉に気持ちよく、緊張がいくらか和らいだ。  直樹は恵子と夏休みの拓の過ごし方を相談した後、帰りの道のりもあるからと、小一時間ほどで帰っていった。 「拓ちゃん。おばあちゃん庭でお仕事してるから、好きに過ごしててね。冷蔵庫の麦茶、全部飲んでもいいからね。何かあったら、いつでも呼んでね。」  恵子はそう言うと微笑んで、玄関から庭に出ていった。  拓は手持ち無沙汰になり、持ってきた荷物から夏休みの宿題を出してページをめくった。  いくら成績がいいほうだとはいえ、夏休みの初日から真面目に宿題に取り組む自分がなんだか変に思えて周りをきょろきょろと見回したが、ゲーム機らしきものはやはり見当たらず、再び宿題に向き直った。  窓から吹き込む山からの風が涼しい。部屋の中は静かだ。  気がつくと拓は一時間ほど集中して宿題に取り組んでいた。拓自身も驚き、少し誇らしい気持ちになって微笑む。  麦茶でも飲もうかと立ち上がると、開け放たれた玄関扉の向こうに祖父の(あきら)の姿が見えた。明は釣り竿とバケツを持ったまま恵子と話をしている。  玄関口まで歩いて行き、二人の話が終わるのを見計らって恐る恐る拓は聞いた。 「おじいちゃん、釣りして来たの?」 「拓か! よく来たな。待ってたぞ!」  明の歓迎ムードに拓はほっとした。 「何釣ったの?」 「鮎だよ。今日の夕飯は鮎の塩焼きだ。」  拓は鮎の塩焼きを食べたことがなかったので、夕飯が待ち遠しくなった。
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