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拓と悠哉は毎日のように山で遊んだ。
椅子のように湾曲した太い木の幹に二人で座り、拓は恵子が持たせてくれたおにぎりを頬張っていた。
「そういや悠哉、いつもお昼ご飯持って来てないね。一旦帰って食べてくる?」
「ううん。俺はいいよ。」
「お腹減らないの?」
悠哉は返事をする代わりに、微笑んだだけだった。
「俺さ、中学受験するんだけど。悠哉は中学、どうするの?」
おにぎりを食べながら、拓は聞いた。
「中学受験、か…。しないかな。」
「そうなんだ…。俺の友達もしないんだけど、なんかそれでさ、ちょっと前から友達と気まずくて…。」
拓は、ずっと心に引っかかっていたことを話し始めていた。
「仲のいい友達の中で、俺だけ放課後に塾とか行くからさ、一緒に遊んだりできなくて。なんかやりづらくなっちゃっててさ。」
拓がちらと悠哉の方をみると、悠哉は真剣な表情で拓を見ていた。慌てて視線を戻す。
「お母さんも入院しちゃって、なんか、不安でさ。だから、ここに来て、悠哉と友達になれてすごく、楽しいんだよね。悠哉いいヤツだし、なんでも話せるっていうか…。」
拓自身、何を言うつもりだったのか、わからなくなっていた。
「悠哉みたいな友達、学校にはいなくて、だから俺、来年の夏休みも、あ、夏期講習とかあるかもだけど、じゃあ冬休みでも春休みでもいいや、また悠哉と、遊びたい…。」
そう言って、拓は抱えた膝の上に顎を乗せた。
悠哉は静かに微笑んで、拓と同じように膝を抱えた。
「ありがと、拓。そう言ってくれて、嬉しい。」
林の中は静かで、風に揺れる木の葉の音と、セミの声が聞こえていた。
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