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今でもお慕いしております。
俺は、その日君に心を奪われた。
入学式が終わり、みんなどことなく緊張気味であまり騒がしくない教室。君は、俺の隣にいた。腰まである長い髪を一束にして、姿勢も良く、ピンと伸びた背中。だがどこか緊張気味な君。俺はそんな君の姿に目を奪われた。
私はその日寝不足でフラフラしながら家に帰るところだった。階段を下る途中足を踏み外してしまい転げ落ちる。と思ったところを君は庇ってくれた。君と初めて会った日。君に初めて伝えた言葉は、「ありがとう」だった。君は急いでいたのか「大丈夫ならよかった」とだけ言い残し、走って行ってしまった。ちゃんとお礼をしたかったのに、、、電話番号聞けば良かった。そんなことを思ったのがちょうど半年前。
そんな君が、今隣にいて、私のことを見ている。彼は気づいたのだろうか、私のことを。背中は曲がっていないかな?変な顔してないかな?そう思いながら君を意識する。
君に心を奪われてからもうすでに2年経っていた。君とはいつのまにかこうして帰り道を共にする様になった。何回、君とこの道を歩いたのだろうか。その度に何回俺の心臓はうるさくなっただろうか。君にこの音は聞こえてないのだろうか。でも、俺には、まだ伝える勇気がないんだ。だから気づかないでくれて「ありがとう」。
桜が舞い散り、私達は、今日卒業する。君とは、結局、何もなかった。何もできなかった。友人たちに囲まれながら、写真を撮り、わいわい騒いでいた。
「美雪ちょっといいか?」
そう君に名前を呼ばれ少しだけ何かを期待した。
「今までありがとう」
ああ、これで終わりか、いや、仕方ない。
「俺は、これからも美雪と一緒いたい。俺と付き合ってください」
え、今、なんて言ったのかな?。どうしよう。卒業式では涙なんてものはなかったのに、今は、抑えようとしても溢れてくる。
「今までありがとう。これからもよろしく」
私達は、同じ大学に進学していた。今日は、君とのお出かけ。いつもより少しだけおしゃれをして、少しだけ待ち合わせより早く着く。だけど君はもう待ち合わせ場所にいて、そこしだけ驚いた。声をかけると、君は私に気づいて、優しい瞳を向けてくれる。しかし、それは一瞬にして切羽詰まった様な瞳に変化した。そして、君に突き飛ばされたと思ったら、私の目の前は赤く染まった。「樹!樹!」私は、何回君の名を呼んだだろうか。君に駆け寄ったが、君のそれは、素人の私が止血できる様なものではなく、ただただ私は、君の名を呼びながら、止めどなく溢れてくるそれを眺めることしか出来なかった。
救急車の中で私で、私達は初めて会った時と同じ会話んしたんだ。
「ありがとう」
「大丈夫ならよかった」
君はそのまま逝ってしまった。
あれから50年が経った今でも、私は、あなたをお慕いしております。そう思わせてくれる人があなたで、初恋でよかった。
「ありがとう」
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