31人が本棚に入れています
本棚に追加
「ええ、ひとつはずしただけで境界線が薄くなったのなら、ふたつ、みっつとはずしていけばもっと薄くなるかもしれません」
「おお! じゃぁ俺達、境界線を突破できる?」
「どうでしょう。でも試してみる価値はあると思います」
吉野の言った通り、二つ目、三つ目とはずしていくにつれて、境界線の存在感がわずかずつだが薄くなっていくのを感じた。もしかしたら今日中に、線を越えられるかもしれない。
希望が目の前にぶら下がり、俺もあきらも少し興奮していた。
「なぁあきら、次は境界線が元に戻る前に、思い切って向こう側へ突っ込んでみようか」
「それいいね! じゃぁミコッチ、いちにのさんで取ってくれる? 同時に飛び込んでみるから」
「了解! じゃぁ取るぞ! いち、にの、」
「「「さん!」」」
御子神の声に合わせて、俺達は思いっきり前へ走った。
柔らかな綿の幕を破るように、わずかな抵抗を払いのけて外へ飛び出す。
俺とあきらは、境界線の向こう側へ、初めの一歩を踏み出した。大きく胸が高鳴る。
「あきら!」
「友哉! やったー!」
「やっと出られ……」
手を取り合って発した歓喜の声は、突然の唸るような獣の鳴き声にかき消された。
遠吠えだ。
「え、え、なに、何の声……!」
あきらが怯えた顔で俺の腕をつかむ。
その腕に鳥肌がたっているのが見え、次に自分の肌も粟立っている事に気付く。
すぐ間近で犬のような遠吠えが聞こえる。それに呼応するように、少し離れた場所から遠吠えが聞こえ、またそれに応えるようにもう少し遠くから聞こえてくる。
少しずつ遠い場所へリレーするように、いくつもいくつも声が聞こえ出して、やがて遠吠えの大合唱になっていく。
「遠吠えがいっぱい……怖い……」
あきらが両手で耳を押さえる。
「すごい、何十匹いるんでしょうか」
吉野も不安そうに空を見上げる。
「おい、どうした。境界線を出られたんじゃないのか? お前らなんでそんな顔をしているんだ?」
いくつもいくつも重なって響き合うものすごい数の遠吠え。
なのに御子神は、はずした道切りを持ったまま不思議そうに俺達を見ていた。
「聞こえないのか? すごい数の遠吠えだぞ!」
「遠吠え? いや、何も聞こえないぞ」
御子神には聞こえない。
つまりこれは、本物の犬の遠吠えではないということか。
こちらの世界のものではないということか。
最初のコメントを投稿しよう!