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小走りで階段を下りながら、御子神が話し続ける。
「そういや、あともうひとつ怖いことがあるんだけどさ」
「まだあるのか」
「この前から久豆葉ちゃんと倉橋、部室棟で昼飯食べるようになっただろ?」
「ああ、中庭よりずっと落ち着けるから」
「あー、じゃぁこれを知ったらもう落ち着けないかも」
「何だよ」
「昨日、購買にパン買いに行こうとして、俺見ちゃったんだ。お前らは部室のカーテンを閉めきっているから知らないだろうけど、今度こっそり外を見てみた方がいい。ぞーっとするから」
「え?」
思わず足を止めてしまった俺を置いて、御子神は猛スピードで走って行ってしまった。
おかげで俺だけ三限目に遅刻してしまったんだけれど、腹痛でトイレにこもっていたと言ったら、先生は笑って許してくれたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
悪魔召喚の魔法陣の上に虹色のレジャーシートを敷いて、まるでピクニックのようにそれぞれのお弁当を広げる。吉野は鼻歌まじりにティーバックを入れた三つの紙コップを並べ、ゆっくりお湯を注いでいく。
「魔法陣の上でお昼か。シュールっていう言葉は、こういう光景に使うものなのかも」
俺の呟きを聞いて、あきらがぷっと笑う。
「『魔法陣の上でお昼』ってアニメのタイトルみたいだ」
「そうですねぇ、そのタイトルだとちょっと不思議でほっこり系のお話でしょうか。さ、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきます」
三人だけの部室の中は、ほんわかとして平和そのものだ。
その分、御子神の言ったことが気にかかり、俺は閉められたカーテンをじっと見つめてしまった。もとは白かったと思われるカーテンは、今じゃ年季の入ったベージュ色にくすんでいる。
「どうしたの、友哉」
「ん、ちょっとな」
俺はレジャーシートから降りて靴を履き、恐る恐る窓に近づいて古びたカーテンをつまんだ。
数センチだけ斜めに持ち上げてみたが、遠くに渡り廊下が見えるだけで変わったものは見えない。だが、ふと視線を下に落としてみて、はっと息を呑んだ。
指から力が抜けて、はらりとカーテンが戻る。
「なにー? なんかあった?」
あきらが立ち上がり、こちらへ来ようとする。
「あ、あきらは見ない方がいい」
「なんだよそれ」
あきらは無頓着にばっとカーテンをめくり、ぎょっとしたようにぱっと手を離した。
「なにあれ」
揺れるカーテンを前に、あきらが後退りする。
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