2-(1) ざわめき

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 小走りで階段を下りながら、御子神が話し続ける。 「そういや、あともうひとつ怖いことがあるんだけどさ」 「まだあるのか」 「この前から久豆葉ちゃんと倉橋、部室棟で昼飯食べるようになっただろ?」 「ああ、中庭よりずっと落ち着けるから」 「あー、じゃぁこれを知ったらもう落ち着けないかも」 「何だよ」 「昨日、購買にパン買いに行こうとして、俺見ちゃったんだ。お前らは部室のカーテンを閉めきっているから知らないだろうけど、今度こっそり外を見てみた方がいい。ぞーっとするから」 「え?」  思わず足を止めてしまった俺を置いて、御子神は猛スピードで走って行ってしまった。  おかげで俺だけ三限目に遅刻してしまったんだけれど、腹痛でトイレにこもっていたと言ったら、先生は笑って許してくれたのだった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  悪魔召喚の魔法陣の上に虹色のレジャーシートを敷いて、まるでピクニックのようにそれぞれのお弁当を広げる。吉野は鼻歌まじりにティーバックを入れた三つの紙コップを並べ、ゆっくりお湯を注いでいく。 「魔法陣の上でお昼か。シュールっていう言葉は、こういう光景に使うものなのかも」  俺の呟きを聞いて、あきらがぷっと笑う。 「『魔法陣の上でお昼』ってアニメのタイトルみたいだ」 「そうですねぇ、そのタイトルだとちょっと不思議でほっこり系のお話でしょうか。さ、お茶どうぞ」 「ありがとうございます」 「いただきます」  三人だけの部室の中は、ほんわかとして平和そのものだ。  その分、御子神の言ったことが気にかかり、俺は閉められたカーテンをじっと見つめてしまった。もとは白かったと思われるカーテンは、今じゃ年季の入ったベージュ色にくすんでいる。 「どうしたの、友哉」 「ん、ちょっとな」  俺はレジャーシートから降りて靴を履き、恐る恐る窓に近づいて古びたカーテンをつまんだ。  数センチだけ斜めに持ち上げてみたが、遠くに渡り廊下が見えるだけで変わったものは見えない。だが、ふと視線を下に落としてみて、はっと息を呑んだ。  指から力が抜けて、はらりとカーテンが戻る。 「なにー? なんかあった?」  あきらが立ち上がり、こちらへ来ようとする。 「あ、あきらは見ない方がいい」 「なんだよそれ」  あきらは無頓着にばっとカーテンをめくり、ぎょっとしたようにぱっと手を離した。 「なにあれ」  揺れるカーテンを前に、あきらが後退りする。
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