2-(2) あきらのことばかり

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2-(2) あきらのことばかり

 あきらのことを考える。  俺の親友で、戦友で、兄弟のあきら。  馬鹿話が好きで、ゲームが好きで、いつも笑っている子供みたいなあきら。 「ほんとに普通なんだけどなぁ……」  ため息と一緒に出た声は、浴室の中で意外に大きく響いた。  体の力を抜いて、ぶくぶくぶくと湯船に沈み込む。  あきら自身が普通でも、あきらを取り巻く何もかもが普通じゃない。父親は誰か分からず、母親は失踪、ついには叔母まで失踪した。境界線から外には出られず、何度も襲われて傷だらけで、学校に行けば奇妙で異様な信奉者達が集まってくる。  俺もあきらも、どうすることも出来ずにただただ怯えているばかりで……。  お湯の中で目を開くと、ゆらゆら揺れる自分の髪が見えた。(いびつ)になった右耳を、あきらから隠すために伸ばし始めた。  俺のやっていることはいつも対症療法ばかりで、根本的な解決には結びつかない。あきらの笑顔が減ってきているのに、薄っぺらな慰めしか言えない自分が嫌だった。  あきらの周りで起こる怪異はきっとすべてつながっている。そこに、どんな根っこがあるのかを早く知りたかった。あきらを苦しめるもの、あきらを悲しませるものを全部取り除いてやれたらいいのに。  息が苦しくなってきて、俺はぷはっと水面から顔を出してブルブルッと頭を振る。気合を入れるようにパシッと頬を叩いて、俺は湯船から立ち上がった。  浴室から出て脱衣所で髪を拭いていると、後ろでガラッと戸の開く音がした。 「あ、ごめん」  慌てたようなあきらの声に、俺は振り向かずに答える。 「いいよ、もう終わるから入れよ」  髪を拭く手を止めて、とりあえずパジャマのズボンをつかむ。ぽたぽたと水滴が落ちるのを邪魔に思いながらズボンを履いていると、すぐ後ろであきらがポソリと言った。 「友哉の体……久しぶりに見た」 「俺の裸なんて珍しいもんじゃないだろ? 子供の頃から何度も一緒に風呂入っているんだから」 「うん……そうだけど……」  妙に沈んだ声を怪訝に思って振り向くと、あきらの目が何かを確かめるようにゆっくりと俺の肌の上を動いて行く。 「どうした?」
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