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「友哉の体、あちこちすごい傷だね」
「ああ、これか? けっこう跡が残っちゃったよなぁ」
俺は自分の体を見下ろした。わき腹や肩や腕、自分では見えないけれど背中にも尻にも、くっきりと噛み跡は残っている。特に、あきらの叔母が消えた日の『あれ』が一番ひどくて、体中に深い傷跡を残していた。
「でも、あきらだって同じだろ?」
あきらは首を振った。
「残ってない」
「え?」
「ぜんぜん残ってないよ、ほら」
ばさりとTシャツを脱いで、あきらが両手を広げる。俺は少し驚いて、日に焼けていない白い胸や背中を見た。
まるではじめから傷など無かったかのように、薄い跡さえ残っていない。
「へぇ、綺麗に消えたなぁ。あきらは色白で傷跡が目立つから、残らず消えてくれて良かったよ。安心した」
「どうして笑っていられるの?」
「へ? だって嬉しいだろ」
「俺は傷ひとつ無いのに、友哉の体はひどいことになってるじゃんか」
あきらはなぜか怒ったように俺を睨んだ。
「いや、俺は男だし、将来モデルとかになる予定も無いんだから、こんな傷なんて気にすることも無いだろ?」
「だけど、友哉ばっかり傷だらけで」
「体質の違いだろうな。仕方ないよ」
「でも」
「そんなことより、ひとつ無視できない事実に気が付いたんだが」
「え、なに……?」
俺は途惑うあきらの目を見上げた。
そう、見上げたのだ。
「あきら、また背が伸びてないか?」
「あ……ほんとだ。友哉、縮んだ?」
「縮んでない! 断じて縮んでなどないぞ! まだまだ成長期だ!」
だがあきらとの差は確実に2㎝よりも広がっている。いつの間にこんなに伸びたんだろうか。俺はあきらをじろじろと睨みつけ、さらに無視できない事実に気付いた。
「あれ、心なしか、腕とか太い……?」
「あ、分かった? 実は毎晩、部屋で軽く筋トレしてるんだ」
「筋トレ? いつから?」
「ここに来てからだから二ヶ月くらい?」
「全然、気付かなかった」
じゃぁあきらは、俺とたっぷり勉強して、さらにたっぷりゲームしたその後に、ひとりで体を鍛えていたのか?
「いやぁ、おばちゃんの美味しいご飯をもりもり食べているから、なんか元気がありあまっちゃって」
「俺だって同じものを食べているけど、そんな元気ないぞ」
「それこそ体質の違いだろ? 仕方ない仕方ない」
「う、何か悔しい」
「あはは、俺は何か嬉しいかも。もういっそ、お兄ちゃんの座も俺に譲っちゃいなよ」
「譲ってたまるか、期末テストも俺が一位だからな」
「はいはい、頑張ってね、友哉お兄ちゃん」
「言ってろ」
あきらがやっといつも通りに笑ったので、俺はガシガシとタオルで頭を拭きながら脱衣所を出た。
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