2-(2) あきらのことばかり

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「友哉の体、あちこちすごい傷だね」 「ああ、これか? けっこう跡が残っちゃったよなぁ」  俺は自分の体を見下ろした。わき腹や肩や腕、自分では見えないけれど背中にも尻にも、くっきりと噛み跡は残っている。特に、あきらの叔母が消えた日の『あれ』が一番ひどくて、体中に深い傷跡を残していた。 「でも、あきらだって同じだろ?」  あきらは首を振った。 「残ってない」 「え?」 「ぜんぜん残ってないよ、ほら」  ばさりとTシャツを脱いで、あきらが両手を広げる。俺は少し驚いて、日に焼けていない白い胸や背中を見た。  まるではじめから傷など無かったかのように、薄い跡さえ残っていない。 「へぇ、綺麗に消えたなぁ。あきらは色白で傷跡が目立つから、残らず消えてくれて良かったよ。安心した」 「どうして笑っていられるの?」 「へ? だって嬉しいだろ」 「俺は傷ひとつ無いのに、友哉の体はひどいことになってるじゃんか」  あきらはなぜか怒ったように俺を睨んだ。 「いや、俺は男だし、将来モデルとかになる予定も無いんだから、こんな傷なんて気にすることも無いだろ?」 「だけど、友哉ばっかり傷だらけで」 「体質の違いだろうな。仕方ないよ」 「でも」 「そんなことより、ひとつ無視できない事実に気が付いたんだが」 「え、なに……?」  俺は途惑うあきらの目を見上げた。  そう、見上げたのだ。 「あきら、また背が伸びてないか?」 「あ……ほんとだ。友哉、縮んだ?」 「縮んでない! 断じて縮んでなどないぞ! まだまだ成長期だ!」  だがあきらとの差は確実に2㎝よりも広がっている。いつの間にこんなに伸びたんだろうか。俺はあきらをじろじろと睨みつけ、さらに無視できない事実に気付いた。 「あれ、心なしか、腕とか太い……?」 「あ、分かった? 実は毎晩、部屋で軽く筋トレしてるんだ」 「筋トレ? いつから?」 「ここに来てからだから二ヶ月くらい?」 「全然、気付かなかった」  じゃぁあきらは、俺とたっぷり勉強して、さらにたっぷりゲームしたその後に、ひとりで体を鍛えていたのか? 「いやぁ、おばちゃんの美味しいご飯をもりもり食べているから、なんか元気がありあまっちゃって」 「俺だって同じものを食べているけど、そんな元気ないぞ」 「それこそ体質の違いだろ? 仕方ない仕方ない」 「う、何か悔しい」 「あはは、俺は何か嬉しいかも。もういっそ、お兄ちゃんの座も俺に譲っちゃいなよ」 「譲ってたまるか、期末テストも俺が一位だからな」 「はいはい、頑張ってね、友哉お兄ちゃん」 「言ってろ」  あきらがやっといつも通りに笑ったので、俺はガシガシとタオルで頭を拭きながら脱衣所を出た。
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