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「あ、あの、上司から聞いても半信半疑だったんですけど、ほんとにこんな怖いことがあるんですね。俺……あ、私はまだちょっと手が震えていて」
「上司の方もここで何かを見たんですか」
「はい。八尺様らしきものを見たって……」
「ああ、なるほど」
「上司だけじゃないんです。ここでおかしなものを見たっていう人がすごく多くて。どうしてなんでしょう? ここは事故物件じゃないし、過去に大きな事件や事故があったわけでも無い。田んぼばっかりのただの田舎なのに」
「ここは、田んぼに囲まれているんですか」
友哉は周囲を示すように手を動かす。友哉は今、アパートの前の駐車場にいるということしか分かっていない。
「いえ、ここは少し高台なので囲まれてはいないですけど、アパートの窓から見えるのは田んぼとその向こうの山だけで変わったものは何も……」
「そうですか」
「まぁ、のどかな田舎の方がえげつない化け物がいたりするよねー」
「え、えげつない化け物……」
「はいはい、想像しない想像しない」
これ以上面倒なものを生み出されては困る。
俺が苦笑すると、山川はぶるぶると首を振った。
「で、でも、ここから車で30分くらいのところに大規模なショッピングモールが出来て、この付近にも少しずつ住宅が増えているんですよ! ここは確かに田舎ですけど、怖い風習とか祟りとか、そういうのは別に無いですから!」
「じゃぁ、ここを建てるのに何かの塚とかお墓とか壊しちゃったりしたとか?」
「まさか、そんな話はありませんよ」
「ふーん。でもこうしておかしなことが起こっているんだから、何かしらのタブーを犯しちゃった可能性はあるよね。土地に古くから棲み付いているものは強い力を持っていたりするし」
「そういう古いものについてはハルさんの方が詳しいよな」
友哉は俺の方へ顔を向けた。声が聞こえてくる方向で誰がどこにいるかだいたい把握できるのだ。
「俺も思ったー。なんで俺達なんだろ。ハルは別の仕事で忙しいのかな」
「倉橋さん」
山川に呼ばれ、友哉がそちらを向く。
「倉橋さんは、その、目が見えないんですよね」
「はい、そうです」
友哉は声のする方に穏やかな顔を向ける。つまり、まっすぐに山川の方へ、友哉のきれいな目が向けられる。
「あの、本当に何にも見えないんですよね」
友哉は少し首を傾げた。
「ええ、あなたの見えているものは何も見えませんけど」
山川は息を呑んだように少し黙り、呟くように声を出した。
「あ、ああ……そうですよね……そういうことですよね」
「はい、そういうこと、ですけど?」
きょとんとする友哉を山川がじぃっと見つめる。
大雅と朧が警戒するように山川を睨んだ。
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