2-(2) あきらのことばかり

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 その時、部屋の外から声が聞こえてきた。 「大丈夫、ひとりで寝られるよー」  俺は慌ててドアを開いた。  あきらが階段の下に向かって、穏やかに笑っている。 「うん、子守歌も要らないからね。俺、もう高校生だよー」  俺は階段の下を覗き込んだ。  母さんがあのうつろな目であきらを見上げている。 「母さ……」  あきらは俺を制するような仕草をして、うなずいて見せた。 「あきら君、必要なものは何でも言ってね」  階段の下から母さんの優しい声がする。 「うん、ありがとう。おやすみなさい、おばちゃん」 「おやすみ、あきら君……」  母さんはそう言うと、のろのろとした歩き方で戻って行く。  あきらは俺に向き直り、ニコッと笑ってみせた。 「どうしたの、友哉。通帳なんか握りしめて」  俺はあきらの腕を強くつかんで、自分の部屋に引っ張り入れる。 「母さんに何かされたか?!」  あきらは笑って首を振った。 「何にも。ただ添い寝しようかって言われただけ」 「添い寝って」  血の気が引いて寒くなり、次の瞬間あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。  母さんが、あきらにそんなことを。 「大丈夫。そんな顔しないで。早苗さんと同じだったから、かわし方は分かっているんだ」 「は……? 早苗さんって、あきらの叔母さんだろ?」  頭が混乱する。  だってあの人は、正真正銘血のつながったあきらの叔母のはずだ。 「うん。早苗さん、俺が高校に入ったあたりから少しずつおかしくなっていて、腕くんだり抱きついたり妙にべたべたしてきて、やたらにスキンシップが多くなっていたんだ……。その内に、うつろな感じでおかしい時と正気に戻る時が交互に入れ替わるようになっちゃって、自分でも苦しんでいるみたいだった」 「なに、それ……」 「早苗さんがぼうっとしている時は、さっきのおばちゃんみたいに一緒に寝ようって言い出したこともあったよ」 「そんな、血のつながった甥っ子に変なことを」 「変なことはされていないよ。大丈夫。きっぱり断ったら引き下がってくれたし」 「そ、そうか……」  ほう……と口から息が漏れる。 「あきら、なんで今まで教えてくれなかったんだよ。悩んでいるなら俺に言ってくれれば良かったのに」  あきらは俺のベッドにストンと腰を下ろした。 「友哉、いつまで通帳握っているの?」 「はぐらかすなよ」 「だって、恥ずかしかったんだ。血のつながった叔母さんに迫られているなんて気持ち悪いだろ」
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