2-(3) 選択肢

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2-(3) 選択肢

 あきらは立ち上がると、ローテーブルの上のケースからティッシュを三枚引き抜いて、ぶーっと豪快に鼻をかんだ。 「ほら、友哉も」  そう言ってティッシュケースを寄越すので、俺も涙を拭いて、大きな音を立てて鼻をかんだ。  互いに赤い鼻をして、なんだか少し笑ってしまう。  あきらは手のひらでぐしぐしと目を拭いながら、俺を見た。 「はーあ……友哉って、恥ずかしいことを大真面目に言うよなぁ」 「は? 何も恥ずかしくないだろ。大切な友達に大切だって伝えただけなんだから」 「うわぁ」 「うわぁってなんだよ」 「そういうとこだよ」 「は? 何がだよ」 「いつも俺が言って欲しい言葉を、声に出して言ってくれる。かなわないなぁって思うよ」  あきらは涙に濡れた目で、ニカッと笑った。 「そこまでなりふり構わず(すが)りつかれちゃったら、もうしょうがないなぁ」 「なっ、縋りついてはいないだろ」 「あははは。ま、これからも一緒にいるよ、友哉お兄ちゃん」  あきらがこぶしを作って掲げる。俺はそこへこぶしをコツンとぶつける。指を握り合って、手のひらを合わせる。  コツン、グッ、パチン、友情の合図。  互いに泣きはらした顔で照れたように笑う。  「ええと、それでとりあえずどうしようか」  照れ臭さをごまかすように言うと、あきらはまたベッドに座り直した。 「今すぐ家を出なくても、まだまだ大丈夫だと思う」 「そう、なのか……?」  俺はローテーブルの前にあぐらをかいて座る。 「うん、おばちゃんは時たまおかしい感じのことを言うけれど、今のところ実際に何かされるわけじゃないから。だから家出は最終手段に取っておいた方がいいと思う」 「そうか……。あきら、ほかに俺に隠していることはないか? 父さんから何かされたとか」 「おじちゃんは普段夜しか会わないし、何もないよ。会うたびに頭を撫でてくるけど、それは前からそうだったから」 「ちょっとでも変だと思ったら俺に言えよ」 「分かった」  自分の親から友人への性的虐待を疑うなんて、精神的にかなりきつい。でも、俺だけ何も知らずにいるのはもっと嫌だと思った。 「で、友哉」 「ん、なんだ?」 「友哉も俺に隠していることがあるだろ」 「え」 「あるよね。ベッドの下とか」  あきらは自分が座っている下をトントンと指差す。  トクンと心臓が跳ねる。 「ここに、何かを隠しているよね」  俺はごくっと息を呑んだ。 「……分かるのか」
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