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「うん。その瞬間、何かが飛び出してきて俺は襲われた。いつもの『あれ』より強くて凶暴なやつで俺はもう死ぬかと思ったのに、その時、友哉が助けに来てくれた」
俺は黒い方の箱をぱかりと開けてみた。あきらがぎくりと身構えたが、今は何も入っていないし、何も飛び出しては来ない。
「あの時の『あれ』は今までで一番強かったよな」
息づかいや臭いまでして、生々しい存在感もあった。俺もあきらも体中を噛まれて、俺は右耳が少し欠けてしまった。
「早苗さんは俺に死んでほしかったんだよね。だから迷わず黒い箱を開けたんだ」
「違う」
「何が違うの」
「俺に助けてって電話してきたのは、早苗さんだ」
「え……?」
「あきらを助けて、お願いって」
「自分で箱を開けておいて……?」
俺はこくりとうなずいた。
「きっと、怖くなっちゃったんだと思う。土壇場になって、やっぱりあきらを死なせたくないって、そう思ったんだろ」
「そうなのかな……」
あきらはベッドから降りてこちらへ近付き、恐る恐る箱に手を伸ばした。
「わっ」
電気でも走ったかのように、手を引っ込める。
「なんか、痛い。触れない」
「そうなのか? じゃぁ、こっちの箱は?」
「えっと……痛っ! こっちも触れないや」
あきらは箱に触れない。
それはどういう意味を持つんだろう。
「こっちの箱、お札が破れているってことは友哉が開けたの?」
「いや、俺じゃない」
俺は、あの時あきらの叔母と交わしたやり取りを、思い出せる限りあきらに伝えた。
あきらがぱちくりと瞬きする。
「重くなった? 俺が?」
「ああ」
「それってどういう現象?」
「よく分からない」
「分からないことだらけだね」
「そうだよな」
「で、そっちの箱には俺の臍の緒とかが入ってるんだ?」
「そうだ」
俺は札のついている方の箱を開けて見せた。中には白いさらしのような包みが入っているので、俺はそれを取り出してあきらへ差し出した。
あきらは恐々それをつつく。今度は痛みもなく触れたようで、ほっとした顔で受け取ると包みを開いた。
5センチくらいの干からびた臍の緒と、こよりで束ねられた十数本の短い髪の毛、それと3センチ四方の和紙の包み。和紙を開くと、薄い桜色の小さな爪が入っていた。
「うわ、ちっちゃ!」
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