2-(3) 選択肢

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「赤ちゃんの頃の爪って言っていたからな」 「へぇ……俺って大きくなったんだね」 「そうだな」  俺より大きくなるなんて、育ちすぎた気もするけど。 「自分の臍の緒ってどうしたらいいんだろう」 「嫌な感じがするか?」 「ううん。嫌なのは箱だけ」 「じゃぁ、箱は処分しよう。臍の緒とかは大事に取っておけばいいんじゃないか? 母親とのつながりみたいなものだろうし」 「そっか。持っていたらお母さんと会えるかな」 「……多分な」 「でも十年も経っているから会っても分からなかったりして」 「そんなことはないだろ。目元とか、あきらによく似ていたし」 「え?」  きょとんとあきらは俺を見た。 「ん?」 「友哉は俺のお母さんに会ったこと無いよね」 「一回だけ会ったぞ。色白で長い黒髪の美人だった」 「確かにお母さんの髪は俺と違って真っ黒だけど、ええー、でもそんなわけないよ」 「なんでだよ」 「だって、俺はお母さんが行方不明になってから御前(みさき)市に引っ越して来て、それから友哉と公園で会ったんだもん」 「それは記憶違いだろ」 「友哉こそ記憶違いじゃない? 会ったのは早苗さんだったとか」 「いや、早苗さんも美人だけど、あきらの母親はもっと迫力のある雰囲気で、目があきらとそっくりだった……はず」  俺とあきらは何となく変な気分で顔を見合わせた。  多分、どちらかが記憶違いをしている 「まぁ、どっちでもいいか。友哉、これを入れるのにちょうどいい箱とかある?」  俺は部屋の中を見回した。壁も棚も天井も世界各国の魔除けがカラフルに彩っているが、良さそうなものは見当たらない。 「あ、そうだ」  俺はクローゼットを開けて、下の段からプラスチックケースを引っ張り出した。 「なにそれ」 「思い出いっぱい、ガラクタ箱」  プラスチックケースのホコリをはらって、蓋を開ける。中には、捨てられない玩具などがごちゃごちゃと入っていた。 「おー、初期のプレグラもあるじゃん。チョーなつかしー」 「だろ」  テレビゲームも、ロボットの玩具も、カードゲームも、俺の玩具はすべてあきらと遊んだものばかりだ。  俺はそこに手を突っ込んで、お菓子の空き缶を取り出した。 「あった、これなんかどうだ?」 「うわー、ドラゴンハンターじゃん!」 「中のキャンディーは食べちゃったんだけど、絵がかっこいいから捨てられなかったんだ」 「これ、もらってもいいの?」 「ああ、こんなので良ければ」 「チョー嬉しいよー」  あきらはお菓子の缶を高く掲げた。 「ドラゴンハンター、今日もゆく!」 「目指すは遥か竜の城!」 「「速度は全速、いざ参る!」」  声を合わせてアニメの真似をしたら、笑いが込み上げてきて二人でケタケタと笑い転げた。
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